「一笑に付す」とは
「一笑に付す」とは「笑って問題にせずに済ませる。バカにして相手にしないでいる」という意味です。少し古い辞書には「一笑に付する」となっていますが、意味は同じです。現在の日常会話では「付す」の方がよく使われているかと思われます。
「一笑に付す」と表現する時、一笑に付した話の内容に正当性があるかないかは別問題で、ひとえに受け手側の主体的な感覚から発せられます。また、「一笑に付される」と受け身の形で使われるケースも多くあります。
さらに、逆説的に使う場合は「一笑に付すわけにはいかない」といった言い回しをします。こちらはストレートに言うと「大事なこととして取り上げる」ということですが、少し持って回った表現にしたい時に使います。
明治時代から?
由来については詳しく分かりませんが、明治時代の小説『浮雲』(二葉亭四迷・1887-89)には
「一笑」と「付す」をさらに詳しく
「一笑に付す」を「一笑」と「付す」に分解して詳しく解説していきます。それぞれは古くから使われている言葉です。
「一笑」とは
「一笑」にはいくつか意味があって「軽く、ちょっと(にっこり)笑うこと」「ひとつの笑い草にすること」「竹に犬を配した絵柄(笑が竹と犬に分解できることから)」などです。
「破顔一笑」という時の「一笑」は、喜びや楽しさといったよい意味で笑っているので「軽く、ちょっと(にっこり)笑うこと」でしょう。ですが「一笑に付す」では、いわば嘲りの気持ちを込めて笑っていますから、「ひとつの笑い草にすること」の意味で使われているといえます。
嘲って笑う意味の「一笑」の例としては「一笑を買う(笑いものになる)」という表現があります。
「付す」とは
「付す(附す)」にも複数の意味があり「付け加える・添える」や「渡す・預ける」のほかに「まかせる・託す・またそのような扱いにする」というものがあります。「一笑に付す」の場合の「付す」は、三番目の意味で使われています。「不問に付す」という時の「付す」と同じ用例です。
「一笑に付す」の使用例
- 社内は引き抜きに関する噂話で持ちきりだったが、当の本人はどこ吹く風で一笑に付した。
- Aさんの会議での発言は、あまりに的を外した内容だったため、一笑に付された。
- ここまでデータを揃えられては、もはや一笑に付すわけにはいかないだろう。
「一笑に付す」と近い意味の言葉
「一笑に付す」と近い意味の言葉としては「鼻先であしらう」「鼻で笑う」「笑い飛ばす」「せせら笑う」「あざ笑う」「小馬鹿にする」「虚仮(こけ)にする」「笑止(千万)」などがあります。また、顔文字で「(ヾノ・∀・`)ナイナイ」というのもあります。
「一笑に付す」を英語で言うと?
「一笑に付す」を英語で表現すると
laugh (a matter) away
dismiss (a matter) with a laugh
といった感じになります。
laughが使われているところに注目です。英語で「笑う」を意味する言葉は複数あって、laughのほかにsmile(ほほえむ)、chuckle(くすくす笑う)、grin(にっこり笑う)があります。「一笑に付す」のようにバカにして笑うような場合には、laughが使われます。
ちなみに、英語のlaughは元々「大声を上げる」意味からきているそうです。一方、日本語の「笑う」は口を大きく開いて「わる(割る)」ところからきているとする説があります。
それぞれの文化の違いが由来に表れていて興味深いですが、「バカにして相手にしないでいる」場合にはどちらも「笑う(一笑・laugh)」を使って表現するという点も面白いですね。