「伝家の宝刀」の読み方と意味
「伝家の宝刀」という語句は、「伝家」(でんか)と「宝刀」(ほうとう)という二つの名詞から成り立っています。このため読み方は「でんか の ほうとう」となります。
「伝家」とは、「代々その家に伝わることやもの」を示します。「家伝」という言い方もあります。また「宝刀」は「宝物として大切にしている刀剣、貴重な刀」という意味です。すなわち「伝家の宝刀」とは、「その家に代々伝わっている、宝物として貴重な刀剣」ということを意味します。
現代ではこれが転じて、「いよいよという場合だけに取り出したり、使用するものや技」「いざという時以外は用いない、思い切った手段」「とっておきの切り札」といった意味合いで使われることが一般的です。
「伝家の宝刀」の語源
「伝家の宝刀」は、元来の意味では「その家に代々伝わる家宝の刀」ということです。つまりそもそもは、江戸時代以前の武士の家などで、その一族に先祖代々伝承している名刀のことを指しました。
刀は、武士にとっては戦の道具であり、命と同じように重要な「象徴」ともいえる存在です。戦国時代には、戦などで手柄を立てると、主君から褒美として天下に名高い刀工が鍛えた名刀を授かることもあり、こうした刀剣は一族の誉れ高い家宝として、代々受け継がれていきました。
武士が日常脇に差している刀は、たびたび研ぐなどして脆くなっていきますが、こうした家宝の名刀は滅多に使われることはなく、屋敷の奥に大事にしまわれているものです。そして一族の存亡をかけるような戦いの時だけ取り出されます。こうした由来から、現代では「いざという時だけ使う、とっておきの手段」という意味で、比喩的に「伝家の宝刀」が用いられるようになったと考えられます。
「伝家の宝刀」の使い方
「伝家の宝刀」は前述のように、「ここぞという時以外には使わない、切り札の手段」という意味ですから、よく使う得意技や「困ったときには毎回お決まりで繰り出す手段」といったニュアンスでは、本来は使用するのは適切でない言い方です。
ただ最近のスポーツ中継やニュースなどを聞いていると、「ここで〝伝家の宝刀〟が冴え渡りました」など、選手の毎回の「決め技」や「得意技」にも当てはめられることが多いようです。
「伝家の宝刀」を文章や会話で使う際は、刀の動作として「(伝家の宝刀)を抜く」や、「~を出す」「~を取り出す」「~を使う」などと用いることができます。
「伝家の宝刀」の間違った言い方
「伝家の宝刀」を使う場合には、誤用に注意する必要があります。発音や言葉のイメージが似ているためか「天下(てんか)の宝刀」と用いるケースが散見されますが、これは明確に間違いです。友人などとの日常的な会話ならともかく、ビジネスシーンや公の場面ではやはり言葉は正しく使用することが、日本語マナーとしても大切だといえます。
「伝家の宝刀」の例文
- この試合では田中投手の伝家の宝刀・スプリットが冴え、三振の山を築いた。
- 相手の調子が悪く、伝家の宝刀を出すまでもなく試合に勝てたのは大きかった。
- 衆院解散は総理大臣の伝家の宝刀。軽々にちらつかせるものではない。
- あらゆる手を尽くしたがダメであれば、いよいよ伝家の宝刀を抜くしかない。
「伝家の宝刀」の類語
- 切り札…とっておきの最有力手段。トランプの「最強札」が由来。
- 奥の手…奥義。最後の手段。
- 秘策…誰も知らない最上の策。
- 隠し球…交渉などで最後まで隠しておく秘策。野球のトリックプレーが由来。
「伝家の宝刀」のまとめ
文化庁が実施した「国語に関する世論調査」によると、最近は本来の言い方である「伝家の宝刀」を使う人が54.6%だったのに対し、誤用とされる「天下の宝刀」を使う人が31.7%に上っているそうです。
元来の意味合いとは異なる「よく使う得意な手段」という意味で用いられるケースも増えている様子。言葉とは「生き物」であり、時代や社会情勢の変遷とともに使われ方も変わっていくものですが、一方でまさに「伝家の宝刀」としての側面もあります。古来受け継がれた正しい形もできるだけ大切にしたいものです。