「悪しからず」とは?
「悪しからず」(あ-しからず)とは、「悪く思わないで」や「悪いほうに解釈しないで(取らないで)」という意味の言葉です。
主に、何らかの連絡事項・通達事項に寄せて、相手の意向に沿えないことについて「申し訳ない」という気持ちを表す語であり、「詫び」や「謝罪」とは性質が異なりますが、相手の心情を慮(おもんばか)る丁寧語に近い性質があると言えるでしょう。
「悪しからず」の使い方と例文
「悪しからず」は、何かしら伝えるべきことに添えて、「その内容はあなたにとって好ましいものではないかもしれないが、理解して/納得して/許して」という気持ちを表すために使います。
それ単独でも使うことができますが、友人間の簡便なやりとりのようなニュアンスですので、ビジネスシーンなどあらたまった場においては、「悪しからずご了承ください」「悪しからずご容赦ください」といった敬語と組み合わせることが必須です。
かみ砕いて言えば、「この決定はあなたの思い通りにならなかった(かもしれない)が、こちらとしても他にどうしようもなく、あなたへの悪意があるわけではありません」という気持ちをあらかじめ一言で述べるのが「悪しからず」です。
例文【友人など親しい相手に】
- 病気療養中のため、葬儀には参列できませんが、悪しからず。
- 誘いを断ってばかりで悪いが、私も仕事が忙しい。悪しからず。
- 週末の宿泊先が急に変更になって、君の紹介状は必要でなくなってしまった。せっかく用意してもらったのに申し訳ないが、どうか悪しからず思ってほしい。
例文【ビジネスなどあらたまった場で】
- この商品はノークレーム・ノーリターンです。ご納得いただけない方の注文はキャンセルさせていただきますので、悪しからずご了承ください。
- こちらの限定版商品は在庫限りとなっております。売り切れの際はご注文をお受けできませんので、悪しからずご了承願います。
- 土日はお休みをいただいておりますので、土日にいただいたお問い合わせに関する個別のお返事は、月曜朝9時以降となります。悪しからずご了承ください。
- 先週ご依頼した件ですが、クライアントの都合により仕様変更がございましたため、添付の新たな仕様に従って作業していただきますようお願いいたします。〇〇様には大変なご不便とご迷惑をおかけいたしますが、悪しからずご容赦ください。
「悪しからず」の注意点
「悪しからず」は、相手に通達した事項が決定的で、変更を差し挟む余地がなく、また原則として相手の意見や反応をうかがう必要がない事柄についてのみ使うことができます。
代表的な使い方は「予防的な但し書き」で、「もし、〇〇がうまくいかなくても、悪しからず」としておくことで、もし事がうまく運ばなくても、あらかじめ断ってあるのだから理解して、納得して、許して、と予防的に伝えておくことができます。
その一方で、「一方的な通告」であるとか、「事後的なフォロー」の文脈で「悪しからず」を使う際には少々注意が必要です。
「悪しからず」が使えない例
本当に「相手に悪い」という事柄、つまり相手に「理解されず/納得されず/許してもらえない」可能性が含まれる内容について「悪しからず」と言うことはできません。その場合、相手に謝罪したり、確認を求めたり、対応を話し合ったりする手続きが優先されます。
上の例文で挙げたような、一般常識に照らして「仕方がない」と言えるような例であれば問題ありません。物事は、常に関係者全員の完全な合意のもとに進められるわけではありませんから、どうしても事後的で一方的な通告になってしまうようなケースもあります。
しかし、何かを伝える側に重大な過失・落ち度があったり、取るに足らない小さな過失であっても相手に不当な害や迷惑を与えたケースでは、相手が「悪く思う」ことを前提とした誠実な対応が必要です。