「鱗」とは
「鱗」を言葉で説明すると、「生き物の体を覆っている、硬いたくさんの小片」となります。リン酸石灰、あるいは角質(ケラチン質)といった成分からつくられており、主な役割としては生き物の体の保護、乾燥に対する防御が挙げられます。さらに、生き物の種類によっては感覚器としての機能を備えている場合もあります。
「鱗」という言葉は古くから魚の代名詞として使われていました。日本人にとって鱗といえばまず、魚をイメージしていたようです。「鱗」の古い言い方は「いろこ」「いろくず」です。「いろこ」の語源は諸説ありますが、ザラザラした細かいものを指す「イロ」に、小さいものの意味の「コ」をつけたとする説が有力です。「いろこ」から変化した「うろこ」が一般に定着したのは17世紀ごろだと言われています。
生き物の「鱗」の由来
生物学的な切り口から「鱗」をさらに詳しく解説していきます。魚類と爬虫類の多くは鱗を持ちますが、由来を考えた場合、どうやら似て非なるもののようです。
魚の「鱗」
真皮中に生じた骨質の小板なので、骨鱗(こつりん)と呼ばれます。骨鱗の形状は大きく分けて円鱗(えんりん)と櫛鱗(しつりん)があり、前者は外側が丸い形をしたものでニシンやコイが代表選手です。一方、後者は外側がギザギザになっており、スズキなどがこの鱗を持ちます。
ちなみに、サメやエイには鱗がないように見えて、実は、楯鱗(じゅんりん)とよばれる小さな鱗を持っています。これがいわゆるざらざらした鮫肌を形づくっています。骨質をエナメル質が覆っており、ほぼ歯と同じ構造になっている点が驚きです。ちょうどいい硬さから、ワサビおろしなどに利用されるのも納得です。
爬虫類の「鱗」
爬虫類の場合、真皮中の骨質は皮骨として外骨格を形成していきます。一方、進化の過程で生活の場が陸上へと移っていくにつれ、表皮が角質化していったものが角鱗(かくりん)と呼ばれ、これが爬虫類の「鱗」となっていきます。ワニの一部は、真皮中の皮骨の上を角鱗が覆うという頑丈な構造ですが、逆にヘビは柔軟な体のつくりとなっており、鱗同士が強固に連結することはありません。
昆虫にも「鱗」?
英語では魚の鱗もチョウの鱗粉(りんぷん)も同じ「scale」で表し、区別がありません。チョウやガの羽の表面は一見、粉のようなもので覆われており、拡大すると、なるほど、10分の1ミリ程度のたくさんの鱗状の小片が存在しています。これが鱗粉です。鱗粉の主な役目は、水をはじいたり、飛ぶときの空気抵抗をコントロールしたり、気温の変化に対応したりすることです。
デザインとしての「鱗」
二等辺三角形を一つの単位として形づくる、幾何学的な連続模様が「鱗」にたとえられ、「鱗模様」「鱗紋」と呼ばれています。起源は古く古代までさかのぼることができ、生命の創造や繁殖、再生を象徴するデザインだったようです。
日本では鎌倉時代ごろから、家紋のデザインとして「鱗紋」が使われるようになりました。バリエーションは多様で、121種を数えます。代表的な家紋を3例紹介します。
- 北条鱗=二等辺三角形3個を2段(上段1個、下段2個)に重ねたデザイン。鎌倉幕府執権の北条氏に由来。鎌倉市の円覚寺、建長寺の寺紋でもあります。
- 三つ鱗=正三角形3個を2段(上段1個、下段2個)に重ねたデザイン。尾形氏、奥村氏、斎木氏など。
- 丸に三つ鱗=正三角形3個を2段(上段1個、下段2個)に重ね、丸で囲ったデザイン。横井氏、岡山氏、平野氏、乙幡氏など。
「鱗」の関連語
「鱗」から発展した関連語がいくつか存在します。下に例を挙げました。
目から鱗が落ちる
何かのきっかけで、気がつかなかったことに突然気が付くことです。「目から鱗」だけでも同じ意味になります。日常会話の中では「その手があったか。目から鱗だね」といった感じでよく使います。新約聖書「使徒行伝」が起源とされています。
うろこ雲
「うろこ雲」は気象学的には巻積雲(けんせきうん)の一種です。空の高いところで発生する、小さな無数の塊がたくさん並んでいる状態の雲です。「鰯雲(いわしぐも)」「鯖雲(さばぐも)」とも言われます。和歌・俳句の世界では秋の季語で、若山牧水は次のように歌っています。
秦基博「鱗」
J-POPにも「鱗」をタイトルにした曲がありました。2007年発売の秦基博さんの2枚目のシングル曲です。2017年にはあだち充さんの名作漫画「タッチ」「MIX」とのコラボビデオが制作され、YouTubeなどで大きな反響を呼びました。歌の主人公は自分を魚にたとえ、鱗を捨てて「君」に会いに行こうと歌っています。