「厳然たる」の意味
「厳然たる」(げんぜんたる)とは、「いかめしいさまの~」「おごそかなさまの~」という意味の言い回しです。
「厳」の字は、「厳しい」「厳粛」「威厳」などの言葉で知られるように、おごそかで気持ちが引き締まる様子や、威儀(いぎ)正しく、堂々としているさまを表します。
「厳」に「そのような状態」を表す「然」をつけ、さらに「そのような状態にあること」を表す助動詞「たり」をつけることで、「まさに『厳』の状態にあるさま」を表現したのが「厳然たる」という言葉です。
「厳然たる」の使い方①:「事柄」
「厳然たる」という言葉のあとには、しばしば「事実」「規則」「差」などのように、「はっきりと、重々しさをもってそこに存在していて、誰にも否定しようがない(と考えられる)事柄」が続きます。
例えば何かの競技で、1位の選手が2位の選手に大差をつけて勝ったとしましょう。この時、1位の選手が勝利したのは「厳然たる事実」ですし、その二人の成績には「厳然たる差」があったといえるでしょう。
ただし、もしも事後になって1位選手の反則行為が発覚したら、例えそれが不可抗力だったとしても「厳然たる規則」によって彼を反則負けにしなければなりません。この場合、1位が勝利したという「厳然たる事実」はなかったことになります。
このように、「厳然たる」は必ずしも不変の事実を指すわけではなく、他者の反論を許さないというニュアンスの「強調」の意でも使われますのでご注意ください。
例文
- 司法は、犯行に至った加害者の心情をまったく考慮しないわけではない。しかし原則としては、「何の罪を犯したのか」という厳然たる事実に基づいて判決を下す。
- 弱いものが淘汰され、強いものだけが子孫を残すのは、厳然たる自然のルールだ。
- 近代においては、男性と女性の扱いには厳然たる区別が存在していました。
「厳然たる」の使い方②:「様子」
「厳然たる」はまた、「表情、顔」「雰囲気」「態度」などの前について、それが「いかめしいさま」「いかにも頑固で、近寄りがたい様子」を表すこともできます。
例えば、鋭く切り立って人の到来を拒否している(ように感じられる)山の頂などは「厳然たる」と形容するにふさわしいでしょう。
もちろん人についても使うことができ、例えば統治者などがどっしり構えて状況に流されることなく冷静な判断を下すさまは「厳然たる態度」と評するに値するでしょう。
例文
- 探検隊の行く手には、前人未到の霊峰が厳然たる面持ちでそびえていた。
- 聖堂に続く扉は、甲冑で身を固めた厳然たる様子の近衛兵らが守っていた。
- 厳然たる口調で反論を述べる老人を前に、青年は説得をあきらめた。
「厳然たる」の類語表現
「純然たる」
「純然」(じゅんぜん)は、「混じりけのないこと」や「全くそれに違いないさま」という意味ですので、「純然たる」とすることで、「厳然たる」と同じように使うことができます。
【例文】
- その時彼の心を奮い立たせていたのは、純然たる勇気だった。
- 純然たる事実を突きつけられても、彼は知らんぷりの態度を貫いた。
「歴然たる」
「歴然たる」(れきぜんたる)とは、「ありありとしたさまの~」「明白なさまの~」という意味の言葉です。(「次々と並ぶ」という意味もあります)
疑いようもなく事実がそこにあるというニュアンスで使われることが多く、「厳然たる」と同じように使うことができます。ただし、「歴然たる表情」のように「様子」について使うことはできません。
【例文】
- 数々の証言や証拠品を精査していった結果、彼が犯人であるという歴然たる事実だけが残った。
- アマチュアとプロの仕事の仕上がりには、やはり歴然たる差がある。
「冷厳たる」
「冷厳たる」(れいげんたる)とは、「つめたくきびしいさまの~」「落ち着いておごそかなさまの~」という意味の言葉です。
「冷たく厳しい」と書く通り、私情を挟んだり例外を許したりすることなく冷淡(れいたん)に物事に当たるニュアンスです。「厳然たる」と似ていて、「冷厳たる姿」のように「様子」についても使うことができます。
【例文】
- 科学者であった彼は、窮地にいたって神を頼るのではなく、冷厳たる物理法則に活路を見出した。
- 絵の中の少女は、冷厳たる顔つきで見る者を魅了した。