「恩に着る」とは
「恩に着る」とは、人から恩を受けたことをありがたく思うという意味の慣用句です。誰かから温情を受けた際に深い感謝の気持ちを持つ様子を表します。
一部の辞書には、「恩に着る」と同じ意味で「恩を着る」という表現を載せているものもありますが、この意味の慣用句では「恩に着る」が一般的であり、「恩を着る」はほとんど用いません。
「恩」とは
「恩」には次のような意味があります。
- 人から与えられた情け、恵み、慈(いつく)しみ
- 封建時代、家臣からの奉公に対して、主人が領地などを給付すること
- 給与・手当
「恩に着る」で使われている「恩」の意味は1番になります。
「着る」の意味
「着る」という言葉は、下のような意味を持ちます。
- 身につける。体に纏(まと)いつける。
- 自分の身に引き受ける。身に負う。
「恩に着る」で使われている「着る」は2番の意味での用法です。
「恩に着る」の使い方
【例文】
- 昨日は折り畳み傘を貸してくれたおかげで濡れずに済んだよ。ありがとう、恩に着るよ。
- 紹介していただいた会社に就職が決まりました。○○さん、恩に着ます。
- このレポート手伝ってよ。恩に着るから、一生のお願い!
1番と2番の例文は、既にしてもらったことに対して感謝を表していますが、3番だけは「もし~してくれたら」と、これから「恩に着る」予定であることを伝える内容となっています。
このように、過去の事だけではなく未来の事にも用いることが分かります。一時のことではなく、ずっと感謝の気持ちを持ち続けるといったニュアンスが含まれた表現なのです。
「恩に着る」の誤用
「恩に着る」という表現を丁寧語にすると「恩に着ます」となりますが、「恩にきります」と誤用されている例が見受けられます。
音だけを聞いて「おん-に-きる」の「きる」から「切る」という字を思い浮かべ、その丁寧語の「切ります」から、「恩に切(き)ります」という誤用表現につながったようです。
「着る」を「身に引き受ける」という意味で用いることは、日常生活では少ないかもしれませんが、慣用句の意味がきちんと分かっていれば誤用することもなくなりますね。
「恩」を用いた表現
「恩に着せる」
「恩に着せる」は、人に恩を施したことを、わざわざその人のためにしたかのように言い、ありがたく思わせようとすることです。
【例文】
彼女はちょっとしたことでも恩に着せるような態度を取るから、あまり関わりたくないな。
「恩着せがましい」
「恩着せがましい」は、恩を施した相手に感謝を促すような態度をとることです。
【例文】
わざわざ頼みもしないことをやっておいて、お返しにランチをおごれなんて、恩着せがましいったらないよ。
「恩を売る」
「恩を売る」とは、のちのち相手から感謝や見返りを得ることを期待して恩を施すことをいいます。
【例文】
あの会社は成長株だから、今のうちに便宜を図って恩を売っておくのが得策だぞ。
「恩を返す」
「恩を返す」は、受けた恩に報いる、また、その人のためになるお返しをすることを言います。
【例文】
この昔話は、お爺さんに助けられた鶴が、人間の姿になってその恩を返すというストーリーです。
「着る」を用いた表現
「罪を着る」
「罪を着る」は、実際にはその罪がないのに、人の罪をかぶる、引き受けることを言います。
【例文】
子供の犯した過ちを隠すため、父親がその罪を着て裁かれることになった。
「笠に着る」
「笠に着る」とは、権力のある人の後援を頼りにして力のないものが威張ることを言います。
【例文】
○○さんは、父親が社長であることを笠に着て好き放題しているらしいよ。