「思いを馳せる」とは?
「思いを馳せる」とは、遠く離れている人物や物事について、さまざまなことを想像したり、思いをつのらせることを意味する言い回しです。「遠く」には、物理的な距離だけでなく、遠い未来や過去といった時間的な隔たりも含みます。
「思いを馳せる」が意味しているのは、距離がある対象への想像や思い、ということのみであり、その感情の内容についての含みはいっさいありません。
「思いを馳せた」結果、愛しさや懐かしさに浸るのか、怒りがふつふつと湧いてくるのか、そのあたりには言及していない表現であることに留意が必要です。
「思い」「馳せる」それぞれの意味
「思いを馳せる」には、なぜ「遠く離れた、もしくは過去や未来の事柄」という限定があるのでしょうか?そのあたりの理解をさらに深めるために、「思い」と「馳せる」のそれぞれの意味を解説します。
「思い」は、多くの意味を持つ言葉ですが、「思いを馳せる」と言うときには、「ある対象について考えをもつこと、想像、物思い、回想」、などの意味で用いられています。
「思い」には、願いや望み、愛情、恨みなどの意味も多々ありますが、「思いを馳せる」の「思い」には感情が含まれていません。
「馳せる」は、大きくわけて三つの意味をもちます。①駆ける、疾走する、馬や車などを早く走らせる。②思い、気持ちなどを遠くに至らせる。③名や名声などを広くとどろかせる。「思いを馳せる」の「馳せる」は②の意味で用いられています。
「思いを馳せる」が、なぜ「遠くの人や物事」への思いなのかは、「馳せる」の意味から理解できますね。
「思いを馳せる」の使い方
「思いを馳せた」結果、どのような感情がわくかまでは表現されていないのは、上述のとおりです。とはいえ、ポジティブ、ネガティブにかかわらず、強い感情が連動してくる状況で「思いを馳せる」が使われることはほとんどありません。
あの人は今どうしているだろう、故郷は変わっただろうか…そんなノスタルジーや淡い感情こそが、「思いを馳せた」結果にふさわしいといえましょう。
もうひとつの注意点は、時間軸の「遠さ」には、過去だけではなく未来も含まれることです。では、どれほどの時間的な隔たりかと問われると、明確な定義はありません。とはいえ、少なくとも数日程度の過去や先のことに「思いを馳せる」を用いるのは不自然です。
「思いを馳せる」の文例
- クラス会の通知に幼馴染の顔が浮かび、小学生時代にしばし思いを馳せた。
- 物産展で故郷の名産菓子をみつけ、懐かしい日々に思いを馳せながら買い求めた。
- 寒い日はわけても、遠距離恋愛で北海道に住む恋人に思いを馳せてしまう。
- 縄文土器の展示場では、それらを作った縄文人に思いを馳せずにいられなかった。
- 婚約者と、二人の将来の暮らしに思いを馳せつつ新居の物件を見て歩いた。
「思いを馳せる」の類語
思いを巡(めぐ)らす:いろいろなことを思案し思いまわすこと、あれやこれやと考えることを意味します。「思いを馳せる」と異なる点は、時間的・空間的な隔たりがない、目の前の人や事柄、現時点での出来事に対しても使えることです。
【文例】黙り込んでしまった恋人を前に、その心のうちに思いを巡らせた。
思いを募(つの)らせる:対象への思い、感情がしだいに強くなっていくことを意味する言葉です。物理的な距離や時制の限定なく使うことができる点が、やはり「思いを馳せる」とは異なります。
更には、そのときの感情が次第に強くなっていくというところも、「思いを馳せる」とは違う点です。
【文例】都会暮しに疲れ、故郷への思いを募らせた結果、とうとう実家に戻ることにした。