「返す刀」とは?
「返す刀」とは何かを攻撃した後、すぐに別の何かを攻撃することです。元々は刀で誰かに斬りかかった後、構えなおすような間を置かずに次のターゲットに斬りかかる動きを指していました。
「返す刀」という表現を使う場合に気をつけたいポイントが二つあります。一つ目は、最初の攻撃対象と次の攻撃対象が別であること。Aを攻撃したついでにBを攻撃するのであって、Aを二回連続で攻撃するわけではありません。
二つ目は、二度の攻撃の間に時間を取らないこと。斬りつけた後でのんびり体制を整えたり、弱点を探したりするようなスキはつくりません。息つく暇のない連続攻撃です。
「返す刀」の意味と使い方
刃物で切る
「返す刀」は時代劇や戦争を描いた小説などでよく見られる表現です。近年では、ゲームやライトノベルでも使われることがあります。
複数の敵に対峙した侍や浪人が、次々と相手を斬り捨てていくシーンを思い浮かべてみてください。同じ相手に何度も斬りかからず、一太刀浴びせて別の相手に斬りかかる。攻撃したらただちに別の敵に移っていく。これが「返す刀」です。
「返す刀」と言いますが、武器は刀や剣に限りません。接近戦に使われる刃物であれば、槍やナイフ、手斧といった武器に対しても用いられます。一方で、遠距離武器である弓矢や銃の連射する表現には使えませんのでご注意ください。
【例文】
- 手近な浪人を袈裟斬りにし、返す刀で背後の男に斬りかかった。
- 返す刀で槍を突き、敵を打ちのめした。
(比喩的に)攻撃する
「返す刀」は物理的な攻撃だけでなく、スキャンダルを追求するような攻撃も表現することができます。政治やビジネスの話題の中でも耳にすることがあるでしょう。
この場合も、必ず複数の人やものを相手にしています。また、最初のターゲットを攻撃した後、続けざまに次の攻撃に移っています。
【例文】
- 彼は富裕層を批判し、返す刀で貧困層をも非難した。
- 彼らは北方の隣国を侵略すると、返す刀で南に兵を進めた。
- 役員のスキャンダルを追求したが、返す刀で個人情報の観点からマスコミを批判している。
誤った使い方に注意
「返す刀」は非常に誤用の多い言葉です。テレビ番組や書籍であっても間違って使われていることが多いので、ことさら気をつけたいものですね。
たとえば、「返す刀で逃げ出す」という使い方は正しくありません。「返す刀」とは二度の攻撃を行うことなので、逃げ出すことには使えません。攻撃と逃走を繰り返すなら「攻撃後、速やかに離れる」といった表現が適当でしょう。
また、反撃するという意味でもありません。「攻撃してきた男を返す刀で攻めた」という場合、直前に別の誰かを攻撃したうえでその男を攻撃するという意味になってしまいます。正しくは「攻撃してきた男に反撃した」です。
「相手に反論すること」の比喩にも使われることがありますが、これは誤った使い方です。「返す言葉」と混同してしまいがちですので、誤用しないように注意しましょう。
「返す刀」の類語や関連語
行きがけの駄賃
何かの行動をしたついでに別の何かをすることを表す、「行きがけの駄賃」ということわざがあります。本来の用事や目的を成すプロセスの中で、別の用事を済ませることや、それによって利益を得るという意味です。
さらに、「返す刀」と同じように誰かを攻撃し、続けざまに別の誰かを攻撃するといったシーンでも使われることがあります。
二の矢
「二の矢」とは二番目の矢。最初に放った矢の後、続けて放つ矢のことです。次々と攻撃することを「二の矢、三の矢を放つ」と言います。
「返す刀」のように、複数の相手を攻撃するとは限りません。「二の矢を放つ」はあくまでも攻撃を繰り返す、執拗に攻撃することだけを表現する言葉です。
「刀」を含む言葉
おっとり刀
「おっとり刀」とは急いで駆けつけるという意味です。漢字で書くと「押っ取り刀」。刀を腰に差す余裕もなく、急いで手にもって駆けつけることを表しています。
「おっとり刀」は決して「おっとりとした様子」でやって来るわけではありません。「おっとりと」していられない状況が「おっとり刀」です。
両刀遣い
「両刀遣い」とは二刀流のことを指します。つまり、二つの異なるものを扱えるという意味です。
慣用的な表現として、甘党かつ辛党という人に対しても使われることがあります。酒飲みは甘いものを好まないという俗説からすると、矛盾していますね。
また、男性と女性の両方を好きになるバイセクシュアルを指すこともあります。