「モチーフ」とは?
「モチーフ」(モティーフ)とは、フランス語「motif」に由来する言葉であり、次の3つの意味があります。
- 絵画・小説・彫刻などにおいて、表現の動機となった中心的なテーマ・思想のこと。
- 音楽において、楽節の基本となる最小の構成単位。動機。
- 壁紙・編み物において、模様の主題を構成する単位。
対象物によって若干指すものの違いはありますが、基本的には、「作品の動機となるもの」という「motif」の本義を押さえておきましょう。
ここでは、これら1~3の意味・使い方を順に解説します。
1.モチーフ:絵画・小説・彫刻
絵画・小説・彫刻など、芸術作品や各種創作における「モチーフ」は、その作品の動機となったテーマや思想のことです。
例えば、あなたが画家であり、ある街を歩いていてふと、「この風景を絵にしたい」と感じ、絵を描いたとします。この時、その街の風景や、その時あなたに生じた「考え」がその絵画のモチーフである、と言うことができるでしょう。
「モチーフ」は形あるものとは限らない
「モチーフ」は、必ずしも形あるものとは限りません。自然、四季、時間、歴史などの概念、あるいは人間の喜怒哀楽などもモチーフの大きな要素です。
そのため、他人から見て作品のモチーフが常に明確とは限りません。有名な芸術作品でも制作背景が不明なもの、作者の意図が不明なものも珍しくなく、「モチーフが何であるか」を考察するのも、芸術鑑賞の楽しみのひとつと言えます。
「表現」とは、目の前にある対象物をそのまま写し取る行為ではなく、写し取る人間の思想が色濃くにじみ出るものと言われています。むしろそのような思想こそが創作の動機(=モチーフ)となる、と言ってもよいかもしれません。
用例
- ピカソの『ゲルニカ』は、戦火に苦しむゲルニカ市民の姿をモチーフとして描かれたという。
- ゴッホの中期の作品には、メランコリーと海岸線のモチーフが多い。
- 頭を抱えてうなだれるその彫刻からは、「苦悩」のモチーフがありありと読み取れる。
- 猫とお酒と音楽は、彼の小説によく登場するモチーフだ。
2.モチーフ:音楽
音楽における「モチーフ」は、楽曲を構成する最小単位のことです。この「最小単位」とは、基本的には楽曲のリズム(拍子)が確定する2小節を指します。
音楽は、文学と同じようにひとつの物語と見なすことができますが、文学とは違って、小さなまとまり(=主題)が形を変えつつ何度か繰り返される、という構成になっている作品が多数を占めます。この主題を成すものが「モチーフ」です。
逆に言えば、たった2小節のモチーフが、曲全体のメロディと主題を形成し、その曲のイメージを決定すると言うことができます。
用例
- 作曲理論を勉強したいなら、まずモチーフについて理解しましょう。
- ベートーヴェン作、『運命』の冒頭の「ジャジャジャジャーン♪」は有名なモチーフだ。
- 雨音のモチーフが全体に心地よい楽曲だった。
3.モチーフ:壁紙・編み物
壁紙や編み物など、装飾美術における「モチーフ」は、ある模様(パターン)を構成する一単位(主題)のことを指します。
例えば、カーテンの柄、ドレスの柄、子供部屋の壁紙などには、水玉模様や、縞模様、動物を模した絵の繰り返しなど、さまざまなデザインが見られます。それらのパターンの最小単位が「モチーフ」です。
編み物においても、「モチーフ編み」や「モチーフ繋ぎ」という編み方があります。これは、個々に編んでおいた小さなモチーフを、あとから縦横につなげていく編み方のことを指しています。
用例
- 空と雲をモチーフにしたカーテンをかけたら、曇りの日でも晴れやかな気分になりました。
- 子ども部屋には、動物モチーフの壁紙がぴったりだ。
- モチーフ繋ぎのやり方はいろいろありますが、「細編み」が簡単でお勧めです。
さらに他分野への応用も
ある模様の最小単位としての「モチーフ」は、壁紙や編み物のみならず、テキスタイル・ファッションとして住環境デザイン、アクセサリーデザイン、プロダクトデザインなど、さまざまなデザインの業界で使われています。
さらにデザイン以外の分野でも、生物学においてタンパク質などが作る「幾何学的な模様の単位」、数学などにおいて「多様体の本質的部分」など、「連続して模様を作るものの一単位」という意味で「モチーフ」が使われています。
フランス語「motif」には「動機」だけでなく「模様」の意味もあることを覚えておくと、これらの応用的な用法も頭に入りやすいかもしれませんね。
「motif」と「motive」
フランス語「motif」を英訳すると「motive」(モーティヴ)です。「動機」や「目的」、または「原動力」などの意味であり、名詞形の「motivation」(モチベーション)は、「動機付け、意欲」などの意味として日本語でも知られていますね。
「motive」には第二義として「作品の主題、モチーフ」という意味もフランス語から継承されているのですが、本義はあくまでも「(創作にとどまらないさまざまな意味での)動機」です。
そのため「作品のモチーフ」というときには、英語圏でも「motive」ではなくフランス語由来の「motif」と言ったほうが意味が伝わりやすいでしょう。