「迫真の演技」とは?
「迫真の演技」とは、人間、状況、場面などが、現実にそこにあるかのような、真に迫った演技のことを意味します。
演技というと舞台や映画、ドラマなどにおける役者がするもの、と思われている方が多いかも知れませんが、「迫真の演技」と評されるのは、役者の演技だけではありません。
たとえば、日常において「泣き真似」や「怒ったふり」をしたこと、されたことはありませんか?このように、同情を誘ったり、不満を訴えたりすることを目的とした「ふり」に対しても、「迫真の演技」という言葉は使われます。
「迫真」の意味
「迫真」とは文字通り「真に迫る」という意味です。おもに、人が「何か」を表現したもの、具体的には演技・写真・映像などに対して用いられます。では、迫る対象である「真」とはどういったことでしょうか?
ここに海を写した二枚の写真があったとします。一枚は穏やかな夜の海の写真。天頂にある満月の光が、煌めく一本の道のように海面に伸びています。眺める者は、その光の道から、静かな海の気配をリアルに感じとることでしょう。
もう一枚は、嵐の海です。大きくうねる波のしぶきが実際に飛んできそうな迫力。たたずむ女性の髪が乱れてなびいている様子からも、観る者は、激しい嵐の海を実感します。
海の真の姿はひとつではありません。一枚目の静けさをたたえた海も、二枚目の荒れ狂う海も、どちらも海の真の姿。それを実感できる写真は「迫真の写真」と言えるでしょう。
この例のように、真の姿や有様はひとつではありません。ゆえに、「迫真」において迫る「真」は、唯一の有様ではなく、その場その場のリアリティと置き換えることができるでしょう。
「演技」の意味
「演技」には、大きく分けて次の三つの意味があります。
- 役者が観客のために、自らの身体の動きや声を用いて登場人物を演じること。もしくは、芸人や演者が芸をすること。
- 人が、本心ではないなんらかの態度を、いかにもそれらしく演じふるまうこと。
- 体操競技などにおいて、選手が行う技。
「迫真の演技」の使い方
「迫」という漢字のインパクトからか、「迫真の演技」のイメージとして、冒頭の写真のような感情が高ぶっている演技や、思いつめたような深刻な演技を思い浮かべる人が多いようです。
しかし、「迫真」の意味の項目で述べたように、「真」とは、その場その場のリアルです。「リアル」は必ずしも大きな動きや、明らかな感情が伴うものとは限りません。
激しい怒りをぶつける演技でも、楽しく談笑している演技でも、だらっと寝転んでテレビを見ている演技でも、まるでその人物がリアルにそこにいるように感じられるなら「迫真の演技」といえます。
「迫真の演技」の文例
(A男)
昨日、初めてミュージカルの「レ・ミゼラブル」を観たんだ。フランス革命の場面など、実際の動乱に自分もまきこまれたようで、役者たちの迫真の演技に圧倒されっぱなしだった。
(B子)
いま放映中の学園ドラマで、教師役の女優が実にいい味をだしてるわ。架空の教師だけれど、いるいる、あんな教師!と思わせる迫真の演技なの。
(C男)
僕の友人がエキストラで映画に出たんだ。それが、ただ顎に手をやって店頭のコロッケを見てるだけなんだけど、普通の客そのままで、あれもまたすごい迫真の演技だよ。
(D子)
直子ったら、彼が別れを切り出そうとするたびに「あなたがいなくちゃ生きていけない!って泣いてみせるの」と笑って舌を出したのよ。迫真の演技に騙される彼も哀れだわ。