「奇しくも」とは?
「奇しくも」(くしくも)は、不思議にも、偶然にも、怪しくもという意味の言葉です。ありえないような偶然や不思議なできごとに驚くさまを指します。
「奇」自体が、普通とは異なる異様なさま、不思議なこと、怪しいこと、を意味する漢字です。そのため、「奇」が用いられる言葉のほとんどが、そのような意味を持ちます。
奇跡、怪奇、奇譚、奇妙、奇抜、奇遇など、枚挙にいとまがありませんが、頻繁に使われる熟語の多くが「奇跡」(きせき)怪奇(かいき)などのように、「奇」を「き」と読む言葉です。
そのため、「奇しくも」を「きしくも」と誤読されるケースが散見されます。正しい読み方ができるように、注意しておきましょう。
「奇しくも」の文法的解釈
「奇しくも」の「~しくも」という言い方には、あまり馴染みのない人の方が多いでしょう。
「奇しくも」は副詞(おもに形容詞や動詞を修飾することば)なのですが、「すごく」「早く」「とても」などの頻繁に使われる副詞にくらべると、少し見慣れない言い回しです。
「奇しくも」は、形容詞「くし」の連用形「くしく」に係助詞「も」が付いて構成されています。「くし(奇し)」は、不思議であることを示す形容詞であり、「も」は意味を強める係助詞です。
したがって、「くしく+も」は、「実に不思議なことに」という意味をもつ副詞となります。
「奇しくも」の使い方
「奇しくも」は、実に不思議であることを意味する副詞ですから、そのあとには必ず、不思議であること、偶然であること、普通ではないことを述べる文章が続きます。「奇しくも、今日も学校へ行った」などと、日常的なこと、普通なことを続けるのは、誤用です。
(A男)
僕と親友の三郎君は、奇しくも誕生日まで同じなんだよ。
(B子)
奇しくも、夫と私は、食べ物の好みがまったく一緒なの。食事を作るにも外食するにも、こんなに楽なことはないわ。
(C男)
兄は五階から転落したのだけれど、奇しくも真下に木があって、骨折はしたものの命は助かったんだ。
(D子)
3年A組から誕生したカップルは、奇しくもみな結婚して、みな離婚したのよ。
「奇しくも」と混同されやすい言葉
「奇しくも」と同じ構成の副詞は、意外に多くあります。「奇しくも」とそれらの読み方や意味を混同してしまう人もいるようです。下記に、代表的な「~くも」型の副詞とその意味、使い方を挙げておきます。
畏くも(かしこくも):恐れ多くも、もったいなくも。
【文例】かしこくも天皇陛下が当保育園をご視察くださり、不肖、園長の私がご案内役を務めたのです。
苟も(いやしくも):かりそめにも、身分不相応にも。
【文例】:いやしくも人を教え導く立場の人間が、とってよい態度ではない。
惜しくも(おしくも):惜しいことに。
【文例】サッカーのワールドカップで、日本はおしくもギリシャチームに負けてしまった。
辛くも(からくも):やっと。
【文例】:からくも、志望校に合格することができた。
「奇しくも」の類語
「奇妙にも(きみょうにも)」
「奇妙にも」とは、不思議なことに、妙なほど珍しいことに、という意味です。「奇しくも」のように「偶然にも」という意味はもちませんが、「偶然」も不思議なことですから、「奇妙にも」のあとに偶然起きた事件の内容を続けることは、もちろん可能です。
- 東京在住のAさんは、奇妙にも、関西に住んだことがないのに好んで関西弁を話す。
- 僕と田中君は、奇妙にも、年に数回ほど遠い地方都市でばったりと出会う。
「奇跡的に(きせきてきに)」
「奇跡的に」は、ありえないほどに珍しいことや、常識では説明できない不思議なことを形容する言葉です。
- 山中に迷いこんで一週間見つからなかった少年が、奇跡的に自力で下山し生還した。
- 右足を失った僕にとって、富士登山に成功して山頂に立てたのは、奇跡的な出来事だった。