「万感の思い」とは?
「万感の思い」(ばんかんのおもい)とは、なにかのおりに、一瞬にして心のなかにさまざまにわき起こってくる感情や思いのことを意味する言葉です。
日常の場面で登場することもまれにはあるでしょうが、きわめて胸があつくなるような感情であることからも、人生の大きな節目で口にすることが多い言葉です。
「万感」の漢字について
「万感」をより深く理解するために、この二つの漢字を検証していきましょう。
「万」は、もちろん数の万(まん)を意味します。「よろず」という読み方をする場合は、数がきわめて多いこと、あらゆること、という「万」の数字以上の「多さ」を表します。なんでも売っている店を、「よろず屋」と称した時代もありました。
一方の「感」は、感情を意味する漢字です。以上の二つの漢字が合わさる「万感」は、ゆえに、さまざまな感情、という意味をもちます。
「万感の思い」の使い方
日常生活のささいなことで「万感の思い」がわくことは、まずありません。期末テストの点数が、これまでの成績をちょっと上回った時は、嬉しいな、というレベルですね。
しかし、合格を目指して努力しつづけた志望校の合格発表で、自分の受験番号を確認した時は、喜びとともに、苦しかったこと、頑張ったこと、さまざまな記憶が感情とともに一挙に心に湧き上がるのではないでしょうか。このような感情が、「万感の思い」です。
使い方のポイント
「万感」ですから、さまざまな感情を表すことが、使い方のポイントです。上記の合格発表のケースで、もし、心が「合格の喜び」だけに湧きたっているのであれば、「万感の思い」ではなく「歓喜の思い」や「喜びの爆発」などが適切な表現でしょう。
長くつきあった恋人との別れに際し、悲しみに打ちひしがれるのみであれば「悲嘆」ですが、楽しかった日々への感謝、憎しみ、残る愛情などさまざまな感情が入り混じるのであれば、「万感の思い」です。
「万感の思い」の特徴と用例
「万感の思い」は、なにかをきっかけとして湧き上がってくる類の感情です。きっかけとなるものの例としては、退職、結婚式、出産、受験の合格発表など、人生の節目となる大きなイベントが挙げられます。
上記のような大きな出来事でなくても、ささやかな「なにか」が、ふと昔の記憶を呼び戻して「万感の思い」に浸る場合もあります。
その感情のほとんどが、かつての体験、記憶から湧き上がってくるものだという点が、この言葉の使い方における大きな特徴です。使用される状況とともに用例を見ていきましょう。
(A男)
定年で40年の会社生活が終わったんだ。職場での挨拶のとき、寂しさや安堵がこみあげ、万感の思いとはこういうものかと実感したよ。
(B子)
結婚式で、普段厳しい父が涙を流しているのを見たの。反抗していた頃の自分の気持ちや感謝の感情が入り混じって、万感の思いに浸ったわ。
(C子)
出産で、我が子と初めて対面した時は万感の思いだったわ。妊娠が判った時の喜びや、つわりの苦しさ、いろいろな思い出がこみあげてきたの。
(D男)
野良猫をかまっていたら、ふと昔飼っていた猫を思い出し、そこから自分の子供時代までリアルに蘇ったんだ。あの日々は宝だったなあと、万感の思いだったよ。
「万感の思い」の類語
「感無量」
感無量(かんむりょう)とは、感情や感慨が、量ることができないほどに大きいこと、深くしみじみとなにかに感じ入るさまを意味する言葉です。
「万感の思い」は、さまざまな感情によるものですが、「感無量」は、基本的に、きっかけとなった「なにか」に関連した感情に深く浸ることを指します。
例えば、志望校の合格発表での「万感の思い」は、先述した例のように様々な記憶が蘇ってのことですが、「感無量」の場合は、合格できたこと自体への感情に深くしみじみと浸る状態です。
【文例】
- 志望校の合格発表ボードで自分の番号を確認したときは、本当にこの高校に通えるんだと感無量だった。