「牙城を崩す」とは?
「牙城を崩す」とい言い回しは、組織や勢力の中心となる部分に打撃を与えて突き崩すという意味を持っています。「城」という漢字があることから分かるように、もともとは戦に関連する言葉でした。
現在では、本来の戦争における使い方以外に、政治、ビジネス、スポーツなど、さまざまな競争のシーンで登場する言い回しとなっています。
「牙城」の意味
「牙城を崩す」という言い回しをより深く理解するために、まずは「牙城」という言葉がもつ意味を解説していきます。
「牙城」は、中国の古典に登場する言葉です。古代中国の皇帝や大将が用いた旗の旗竿や先端には、象牙などから作られる飾りがついていて、「牙旗(がき)」と呼ばれました。
その「牙旗」をもつ城主のいる城は、牙と爪で守備された堅固な城という意味で「牙城」とも称されたのです。古代中国において、敵の「牙城」を攻め崩し、「牙旗」を奪うことが戦の勝利と見なされました。
「牙城を崩す」の使い方
組織や勢力の中心部を崩すという意味を持つ「牙城を崩す」という言い回しは、本来の「戦争の趨勢を決める」という意味に止まらず、実に多様な場面で使われるようになりました。
本来は、「戦の勝利」を意味する言葉であった「牙城を崩す」ですが、現在では「相手の主要な拠点に大きなダメージを与える」というレベルの意味になっていることには注意が必要です。
二つの自動車メーカーAとBの日本都道府県でのシェア争いを例として考察してみましょう。A社の車の販売シェアがもっとも高いのが東京都だったとします。その場合、A社の「牙城」は東京都ということになります。
B社の新車が好調で、東京都における販売シェアのトップをA社から奪ったとき、B社はA社の「牙城」を崩したことになります。しかし、A社はそれで倒産するわけではありません。ある時期の販売シェア一位をB社が奪ったに過ぎず、競争はまだ続きます。
(A部長)
A社の車の販売シェアが断トツ・トップの東京で、ついに我が社の車がシェアを逆転した。A社の牙城を崩した記念すべき第一四半期になったよ。
(政治家B)
この選挙区は、長年与党に牛耳られてきたが、今回の選挙で我が党の当選者が与党を三名も上回った。ついに牙城を崩したぞ。
(C子)
男子フィギュアの団体戦、アメリカの大エースZ選手の牙城を崩したH選手の活躍で、日本が見事優勝を果たしたわ!
「牙城を崩す」の類語
「本丸を落とす」
「本丸を落とす」は、「牙城を崩す」と似た意味をもちます。戦に由来が求められることも同じです。「本丸」とは、城主や大将がいる場所のこと。そこを攻めて落とす、ということは、戦に勝利するという意味です。
「牙城を崩す」と同じく、大きな組織や勢力の中心部に壊滅的な打撃を与えるわけですが、「落とす」なので、よりはっきりと「勝利」を表しています。語源からも、あらかじめ相手をライバルや敵を見定めての競争、争いに用いられることにも注意が必要です。
「牙城を崩す」は、個人や企業などの努力や業績のほうに主眼を置き、その結果が大きな組織を上回った、というニュアンスがあります。「本丸を落とす」は、相手を負かすことを目的としているニュアンスです。
したがって、一般的な比喩として「本丸を落とす」を用いると、相手に対してきわめて非礼な表現となってしまうことがあるため、TPOを考え、軽々しく用いないようにしましょう。
(A男)
今朝のニュースによると、多国籍軍はついにテロリスト軍の首謀者の隠れ家を爆撃し、本丸を落としたようだ。平和が戻るといいなあ。