「腐っても鯛」の意味と使い方
「腐っても鯛」ということわざ・慣用句は、「くさってもたい」と読みます。魚の鯛のことを形容した表現で、「時間がたって身が腐ったといえども、鯛には変わりない」といった意味合いを示しています。
これは「元来、優れた素質や価値を持つものは、多少劣化したとしても、その本来の価値は変わらない」といった意味です。あるいは「もともと高級なものは、素材の良さもあり、多少古くなったり悪くなったりしても、それなりに価値はあるものだ」という趣旨でもあります。
物品だけでなく、人や組織について評価をするときにも使われます。その場合は「家柄が良かったり、昔は羽振りが良く金持ちだった人や組織は、多少落ちぶれたところで、それなりに品格があり、ある程度は役に立つこともある」といった意味合いを示します。
このように「上から目線」ではあるものの、一応は質の良い物や人を評価している表現だとはいえます。しかし皮肉を込めた印象も強く、直接相手に使うのは失礼に受け取られるため、避けるべきでしょう。
「腐っても鯛」の由来
「腐っても鯛」ということわざは、鯛という魚と日本人のかかわりが由来になっています。鯛は古来、日本では高級魚として珍重され、おめでたい席には欠かせない食材でもあります。
その鯛ですので、仮に時間がたって腐ったとしても、「他の下級な魚とは違い、鯛はやはり鯛。高級なものであることには変わりない」と、その価値は変わらないことをたたえた言い方です。
海に囲まれた日本では魚は貴重な食料ですが、その中でも最上級の種類であり、「高級だ」「おいしい」とありがたがられる鯛を、人間や物事の評価の比喩に用いたのが「腐っても鯛」だといえます。
そもそも「鯛」はなぜめでたい?
そもそも鯛はなぜそんなに日本人にもてはやされるのでしょうか。鯛はスズキ目タイ科の魚の総称で、クロダイ、キダイ、イシダイなどさまざまな種類がありますが、その中でも狭義には「マダイ」を指します。
マダイは全長1メートル近くにもなる大型の魚で、身は締まった歯ごたえある白身で、臭みやくせもない食べやすい種類。日本では縄文時代から食用にされてきたそうです。
見た目に姿が美しく、鮮やかな赤い体色と「めでたい」に通じる名前から、慶事の席では欠かせない魚として珍重されてきました。鮮度の劣化が他の魚に比べて遅く、寿命も20~40年と非常に「長生き」なことも、祝いの席にふさわしい高級魚として喜ばれる理由だといわれます。
こうした「おいしい上に、長生きで腐りにくい高級魚」といった性質から、鯛が「昔は高貴だった人」「かつては一世を風靡した高級品」といったものと比較されて、「価値はそうそう変わらない」という意味のこのことわざになったと考えられます。
「腐っても鯛」の類語と対義語
「腐っても鯛」の類似表現
- 「古川に水絶えず」…代々栄えた家は、落ちぶれても何とか続いていく。基礎のしっかりしているものは、容易には滅びないことの例え。
- 「大鍋の底は撫でても三杯」…規模が大きいものは、何にしても役に立つし、たいしたものだという意味。大きな鍋なら、底にたまったものを集めればお椀に三杯くらいにはなる、ということから。
「腐っても鯛」と反対の表現
- 「騏驎(きりん)も老いては駑馬(どば)に劣る」…千里を走る駿馬といえども、年を取れば、足の遅い駄馬にも劣るようになる。転じて、どんなに優れた才能がある人でも、年老いて衰えれば、平凡な人にも及ばなくなるという例え。
- 「昔千里(むかしせんり)も今一里(いまいちり)」…昔は千里を走った名馬も、年老いてしまった今では一里走るのが精いっぱいだ、との意味。
「腐っても鯛」のまとめ
鯛を高級品としてありがたがるのは日本人くらいだそうです。見た目の立派さ、淡泊な味わいや語呂合わせが日本人の価値観にしっくりくるのでしょうか。
ただし「腐っても鯛」という言葉は内々のジョーク混じりの表現。間違っても、職場などで面と向かって「○○さん、高校で駅伝部だっただけあって今でも結構足早いんですね。腐っても鯛、ですか」などとは言わないようにしましょう。