「堂に入る」の意味
「堂に入る」は、(どうにいる)と読みます。「入る(いる)」を「はいる」と読み間違えないように注意しましょう。日常的に使うことは少なく、やや硬い印象を受けるかもしれません。
「堂に入る」は、「学問や技術などが深くまできわめられ、奥義に達している。ものごとに熟練していて、身についている」ことを表す慣用表現です。より理解を深めるため、まずはこの言葉の語源をたどってみましょう。
「堂に入る」の語源
「堂に入る」の語源は、孔子の教えをまとめた書物『論語』の一節にあります。孔子は、中国春秋時代の思想家で、儒教の祖とされています。
訓読文:子曰く、由や堂に升(のぼ)れり。未だ室に入らざるなり。
訳:孔子はおっしゃった。「由はすでに堂にのぼっている。まだ室に入らないだけのことだ」と。
「堂」は、家屋にある「表座敷(客間)」のこと、「室」とは、さらに先の「奥座敷」を指します。また「由」は、孔子にもっとも可愛がられたと言っても過言ではない、子路という弟子のことです。
孔子は彼の琴の腕前を「今ひとつだ」と述べたのですが、これによって他の弟子たちは、子路に敬意を払わなくなってしまいました。しかし、孔子は「堂に升りて室に入らず」、つまり「奥義には達していないものの、ある程度の腕前はあるのだ」と子路を認め、弟子たちをたしなめました。
「堂に升(のぼ)りて室に入る」
「堂に升りて室に入らず」から派生した形として、「堂に升りて室に入る」という表現があります。「堂」からさらに「室」に入っていることを意味しますから、その道の奥義に達していることを表します。
この「堂に升りて室に入る」が短縮され、「堂に入る」になったとされています。よって、今日において「堂に入る」は、「すぐれていること、きわめていること」という意味で用いられています。
「堂に入る」の使い方
「堂に入る」は、その人の技術やスキルが高いレベルにあることを、ポジティブに評価するために用います。プロフェッショナル、一流などと呼べるようなイメージですね。
一方で、「上達しましたね」というニュアンスを含むこともあるでしょう。たとえば、目上の方に「堂に入ったプレゼンでしたね」と使うと、上から目線だなと受け取られる可能性も否定できません。この場合は、「お見事です」などと別の言葉を選ぶほうが無難でしょう。
例文
- 堂に入った演技を見せた彼女は、すっかりベテランのオーラが漂っている。
- ラジオ中継で活躍する彼の競馬実況は、堂に入るものだ。
- 彼女は堂に入った所作で、見事なお点前を披露した。
「堂に入る」の類語
「堂に入る」の類語には、次のような言葉が挙げられます。
- 熟練:物事に慣れて、手際よくじょうずにできること。また、そのさま。
- 習熟:そのことに十分に慣れ、じょうずになること。
- 板につく:積み重ねの結果として立場や境遇が似合ってくる、または、ふさわしい技術が身に付くこと。
- こなれている:熟練しており、ぎこちなさなどを感じさせない様子。十分に慣れている様子。
- ものにする:習得する。体得する。我が物とする。
「堂に入る」の英語表現
「堂に入る」は、ある道をきわめている、と解釈することができます。「精通している」ということから、「達人」や「名人」、あるいは「専門家」とも呼べるかもしれません。ここでは、「堂に入る」に近い意味の英語表現をご紹介します。
quite at home
「quite」は「すっかり」、「at home 」は、「慣れて、熟練して、板について」などと訳すことができます。「quite at home」で、手慣れている、精通しているという意味を表します。
【例文】
- She is quite at home in English.(彼女は英語に精通している。)
- He is quite at home with computers.(彼はコンピューターに精通している。)
master/expert
「master」は多義的な言葉ですが、「熟練者」や「達人」と訳すことができます。また「expert」は、「専門家」を意味します。「エキスパート」とカタカナ語で使われることもあるでしょう。
【例文】
- She is a master of calligraphy.(彼女は書道の達人だ。)
- He is an expert on marine mammals.(彼は海洋哺乳動物の専門家だ。)