「知る由もない」の意味と使い方|文学的な日本語表現を解説

「知る由もない」という言葉、小説や物語の中で見かけたことはありませんか?「由」を「ゆう」と読み間違えそうになるこの表現、実は深いニュアンスを持った日本語の美しい慣用句です。どんな場面で使えば自然なのか、その真の意味を詳しく探ってみましょう。

知る由もないとは?知る由もないの意味

知るための手段や手がかりがまったくないこと

知る由もないの説明

「知る由もない」は、「由(よし)」という言葉が持つ「方法」「手段」「きっかけ」といった意味合いを核心にしています。未来の出来事や他人の心中、隠された真実など、どうあがいても知り得ない情報に対して用いられる表現です。特に文学作品では、登場人物の視点から「まだ知る由もなかった」という形で、後の展開への伏線として巧みに使われることが多いですね。日常生活では「知りようがない」という言い回しの方が一般的ですが、「知る由もない」はより文学的で情感のある響きを持っています。

日本語の豊かな表現力を感じさせる、味わい深い慣用句ですね。

知る由もないの由来・語源

「知る由もない」の語源は、古語の「由(よし)」にあります。「由」は「手段」「方法」「きっかけ」を意味し、平安時代から使われてきた歴史ある言葉です。特に和歌や物語の中で、「知るよしもなし」として登場し、恋人への想いが伝わらないもどかしさや、遠く離れた人の安否がわからない不安を表現するのに用いられてきました。時代とともに表現が変化し、現代では「知る由もない」という形で定着していますが、そのロマンチックなニュアンスは今も受け継がれています。

日本語の深遠な情感を感じさせる、まさに「言い得て妙」な表現ですね。

知る由もないの豆知識

面白いことに、「知る由もない」はほとんど否定形でしか使われません。肯定形の「知る由もある」はほとんど耳にしない表現です。これは、知ることが可能な場合にはわざわざ「由」という言葉を使う必要がなく、むしろ「知り得ない」という絶望感や諦めの感情を強調するために発展してきたからです。また、文学作品では主人公の運命の岐路でよく使われる修辞技巧でもあり、読者に「この先どうなるのか」という期待感を抱かせる効果があります。

知る由もないのエピソード・逸話

作家の夏目漱石は『こころ』の中で、この表現を効果的に使用しています。主人公が「先生」の過去を知りたいと思うものの、直接聞く由もないというもどかしさを描写。また、劇作家のシェイクスピア作品の翻訳でも、『ハムレット』のオフィーリアが「I know not what I should think」という台詞を「知る由もなく」と訳されるなど、東西を問わず普遍的な感情表現として用いられてきました。現代では、ミステリー作家の東野圭吾氏も作品中でこの表現を好んで使い、登場人物の不可知な運命を暗示する手法として活用しています。

知る由もないの言葉の成り立ち

言語学的に見ると、「知る由もない」は日本語の「否定表現の非対称性」を示す好例です。肯定形がほとんど使われない一方、否定形が慣用句として定着している現象は、日本語の「負の表現」の豊かさを物語っています。また、「由」という漢字の訓読み「よし」は、本来「良い」という意味とは無関係で、語源的には「縁(よし)」や「因(よし)」と同じく「つながり」を表す古語から派生しました。このように、一見難解に思える表現も、歴史的変遷をたどると論理的な言語構造を持っていることがわかります。

知る由もないの例文

  • 1 明日の天気が雨だと知る由もなく、せっかく洗濯物を外に干して出かけてしまった
  • 2 彼女がまさか同じ電車に乗っているとは知る由もなく、ずっとスマホを見ていた
  • 3 上司がすでに退社したことを知る由もなく、30分も遅刻の謝罪を準備していた
  • 4 この道が工事中だと知る由もなく、ナビに従ってきたら大渋滞に巻き込まれた
  • 5 あの店が定休日だと知る由もなく、わざわざ遠くから足を運んでしまった

「知る由もない」の類語と使い分け

「知る由もない」にはいくつかの類語がありますが、それぞれ微妙なニュアンスの違いがあります。適切な場面で使い分けることで、より正確な表現が可能になります。

表現意味使用場面ニュアンス
知る由もない知る手段や方法がまったくない文学的表現、格式ばった場面諦めや絶望感を含む
知りようがないどうやっても知ることができない日常会話、カジュアルな場面より直接的な表現
推し量れない推測することもできない他人の心中や複雑な事情理解の困難さを強調
察するすべがない推察する方法もない他人の感情や意図共感の不可能性を示す

特にビジネスシーンでは、「知る由もございませんでした」と丁寧語にして使うことで、知識不足を詫びつつも上品な印象を与えることができます。

使用時の注意点とよくある間違い

  • 「由」を「ゆう」と読まないように注意(正しくは「よし」)
  • 肯定形の「知る由もある」は基本的に使わない
  • 過去形で使う場合は「知る由もなかった」が自然
  • 自分の無知を認める表現なので、責任転嫁のように聞こえないよう注意
  • 重要な事実を知らなかった言い訳として乱用しない

また、この表現は「どうしようもなく知ることができない」という強い否定を表すため、軽い無知を表す場合には不自然に聞こえることがあります。例えば「今日の会議の時間を知る由もない」と言うよりも、「今日の会議の時間を知らなかった」と言う方が自然です。

文学作品での使用例と効果

彼がこの先どんな運命をたどるのか、私はまだ知る由もなかった。

— 夏目漱石『こころ』

文学作品では、「知る由もない」が物語の転換点や登場人物の運命の岐路で効果的に使われます。読者にはわかっている未来が、登場人物にはまだ見えていないというドラマティックな状況を作り出す修辞技巧として活用されています。

  • サスペンスやミステリー作品での伏線として
  • 登場人物の無知や純粋さを表現するため
  • 読者と登場人物の情報差を強調するため
  • 物語の悲劇性や運命の皮肉を際立たせるため

よくある質問(FAQ)

「知る由もない」の「由」はどうして「よし」と読むのですか?

「由」という漢字には「よし」という訓読みがあり、これは「手段」「方法」「きっかけ」を意味する古語から来ています。現代では「理由」「経由」など音読みが主流ですが、慣用句として古い読み方が残っている珍しい例です。

「知る由もない」と「知りようがない」はどう違いますか?

意味はほぼ同じですが、「知る由もない」の方が文学的で格式ばった印象があります。「知りようがない」は日常会話でよく使われる口語表現で、よりカジュアルなニュアンスです。

肯定形の「知る由もある」は使わないのですか?

はい、ほとんど使われません。この表現は「知ることが不可能」という否定の状況に特化して発展してきたため、肯定形は自然な日本語として定着していません。肯定の場合は「知る手段がある」など別の表現を使います。

ビジネスシーンで使っても失礼になりませんか?

問題ありません。むしろ、「知る由もなかったもので」などと使うと、知識不足を詫びつつも上品な印象を与えることができます。ただし、重要な連絡ミスなどでは、より直接的な謝罪が必要な場合もあります。

どんな場面で最もよく使われる表現ですか?

未来の予測が難しい場面や、他人の心中を推し量れない状況でよく使われます。例えば「試験結果が合格かどうかはまだ知る由もない」や「彼がなぜ怒っているのか、私には知る由もない」といった使い方が典型的です。