「着の身着のまま」の意味
「着の身着のまま」(きのみ・きのまま)とは、「着ている衣服のほかに、何も持っていないこと」という意味の言い回しです。
「着の身」と「着のまま」を合わせた連語であり、それぞれの言葉が独立して使われることは現代ではほとんどありません。「着ている身」「着ているまま」と、同じ意味の言葉をつなぎ合わせた言葉であるといえます。
「着のまま」のみでも、「着の身着のまま」と同じ意味です。「まま」は、漢字では「儘」と書きますが、常用外の字であるため、書く際はひらがな表記で構いません。
「着の身着のまま」の使い方
「着の身着のまま」という言い回しは、文字通り、今着ている服のほか、何も持っていないという状態を指して使います。基本的には、「着の身着のまま、〇〇する」と、動詞と共に使うことを覚えておきましょう。
例えば、夜寝ている時に大きな地震(その他災害)に襲われたと考えましょう。財布や家の鍵など貴重品を持ち出せる余裕があればよいのですが、場合によっては、命を守るために寝巻のまま何も持たずに逃げ出す、という状況もありえます。
そんな時に使われるのが、「着の身着のまま(逃げてきた)」という言い回しです。
例文
(被災者)
いきなりの大きな地震で驚いた。家は無事だったが、さすがに中にいるのが怖いので、靴だけ履いて、着の身着のまま、外へ出たんだ。
(少女)
進路のことで父親と口論になって、衝動的に着の身着のままで家を出てきてしまった。スマホと財布くらい持ってくればよかった…。どんな顔して帰ればいいんだろう。
(宿泊客)
突然火災警報が鳴って、ホテルの部屋から慌てて逃げてきたんだ。何も持ってない、着の身着のままだよ。
自分の意思で「着の身着のまま」とはならない
「着の身着のまま」には、「そうせざるを得なかった、不本意ながらそうなってしまった(できれば何か持っていたかった)」というニュアンスがあります。
そのため、「自分の意思で、着ている服以外の所持品を持っていない」という状況には使えません。以下のような表現は誤用ですので、ご注意ください。
- 【誤り】寝室で、着の身着のまま、くつろいだ。
- 【誤り】天気が良いので、着の身着のまま、公園を歩いてきた。
「着の身着のまま」?「気のみ気のまま」?
「着の身着のまま」という言い回しを、まれに「気のみ気のまま、気の向くまま」(意味:思う通りにするまま、気まま)という形で使っている方がいるようです。
音がまったく同じである点、「気のまま(儘)」という言葉が存在する点に加え、「着の身着のまま」が「服以外に何も持たず、自由な気持ちで」という意味であるという誤解により、同じ言葉として混同される例もあるようです。
既に述べたとおり、「着の身着のまま」は「不本意ながら」というニュアンスであり、「気のままに」というニュアンスはありません。音が同じだからといって、誤用しないようにご注意ください。
綿矢りさ『生のみ生のままで』について
芥川賞受賞作家である綿矢りささんの著作に、『生のみ生のままで』(きのみきのままで)というタイトルの小説があります。2019年6月に初版が出版されました。
女性同士の恋愛(同性愛)について描いた小説であり、ファンの間では緻密な心情描写を得意する同著者が新境地を切り開いた、時代に合った作品として評価されているようです。
「生のみ生のままで」というタイトルは、恐らく「着の身着のまま」から着想しつつ、「生まれたままのあなたで(ジェンダーなど、後天的な社会的条件など考慮しなくてよい)」といった思いが込められているのではないかと推測されます。