「後顧の憂い」とは
「後顧の憂い」(こうこのうれい)は、「後顧」と「憂い」の二つの言葉からできていますので、それぞれの言葉について見ていきましょう。
「後顧」とは
「顧」は、音読みでは「コ」、訓読みでは「かえり(みる)」と読みます。いくつかの意味がありますが、ここでは、過去を振り返る・振り返って見回すことを指しています。
つまり、「後顧(こうこ)」とは、気掛かりなことがあって後(あと)を振り返るという意味です。
「憂い」とは
「憂」は、音読みでは「ユウ」、訓読みでは「うれ(い)・うれ(える)・う(い)」と読みます。こちらも複数の意味がありますが、ここでは、心配する・心配事を表しています。
「後顧の憂い」の意味
「後顧の憂い」とは、「後を振り返る」+「心配事」ということですから、「後の心配をすること・後に残る気遣い」という意味です。
「後顧の憂い」の使い方
「後顧の憂い」は、おもに、「後顧の憂いなく」のように否定語を伴うか、「後顧の憂いを断つ(絶つ)」という言い回しで用いられます。
【例文】
- 頼もしい後輩たちがいるから、後顧の憂いなく卒業できる。
- 家は妻が守ってくれているので、後顧の憂いなく研究に没頭できた。
- 後顧の憂いがあっては、全力で戦えない。
- 後顧の憂いを断つために、借金の精算をしておいた。
「後顧の憂い」の語源
「後顧の憂い」は、中国故事の「後顧之憂」(こうこのうれい・こうこのゆう)に由来します。元になっているのは、『魏書 李沖伝』に記されている、次のような言葉です。
読み方:われをして、きょうをいだし、こうこのうれいなからしむ
現代訳:(李沖は)私が国外に出る際には後の心配を無くしてくれた
これは、北魏の孝文帝(こうぶんてい)が、部下の李沖(りちゅう)の死に際して述べた言葉です。李沖は孝文帝の信任が厚く、洛陽遷都の実現などに貢献した官僚です。
「後顧之憂」と同じく、後日のことを心配するという意味の言葉に、回顧之憂(かいこのうれい)、環顧之憂(かんこのうれい)、反顧之憂(はんこのうれい)などがあります。
「後顧の憂い」の関連語
「懸念」
「懸念(けねん)」にはいくつかの意味がありますが、気掛かり・心配という意味においては「憂い」と同義です。ですから、「後に懸念が残る」などの言い回しは、「後顧の憂い」と似ています。
「思い煩う」
「思い煩う(おもいわずらう)」とは、いろいろと考え、思い悩むことです。「後顧の憂い」のように「後のこと」というニュアンスはありませんので、「後のことを思い煩う」のような表現であれば、同じように使うことができるでしょう。
「心置きなく」
「心置きなく」には、他の人に対して遠慮しないという意味もありますね。しかし、もうひとつの、安心して・心残りなくという意味においては、「後顧の憂いなく」と同じように用いることができます。
「腹を括る」
「腹を括る(はらをくくる)」とは、覚悟を決めることを表す慣用句です。「後顧の憂いを断って」前に進むわけですから、関連する言葉と言えるでしょう。
「憂い」を含む慣用句
「杞憂」
「杞憂(きゆう)」とは、簡単に言えば、取り越し苦労という意味です。これは、『列子 ー天瑞篇ー』に記されている故事に由来します。
「備えあれば憂いなし」
「備え(そなえ)あれば憂いなし」とは、日頃から準備しておけば、いざという時も心配がないということわざです。「転ばぬ先の杖」や「念には念を入れる」と同じ意味ですね。
「憂いを払う玉帚」
「玉帚(たまははき)」は掃除に使う「ほうき」の上品な言い方です。これを使った、「憂いを払う玉帚」という言葉があります。
酒は心配ごとをきれいに取り払ってくれる素晴らしいほうきのようなものだという意味で、酒に酔うことで心配ごとをきれいさっぱり忘れられることのたとえです。
「遠き慮りなき者は必ず近き憂いあり」
「遠き慮り(おもんぱかり)なき者は必ず近き憂いあり」とは、遠い将来を見越した考えを持たず、目先のことばかりに気を取られていると、近いうちに必ず心配事が起こるという意味です。