「采配を振るう」とは
「采配(さいはい)を振るう(ふるう)」は「采配を振る(ふる)」という慣用句が誤用されたものです。
慣用句「采配を振る」は、「先頭に立っててきぱきと指図をし、大勢の人を動かすこと」を意味します。
「采配を振る」の使い方
この記事のタイトルは「采配を振るう」ですが、本来の使い方は「采配を振る」ですので、そちらの使い方をご紹介しましょう。
- 来月の学習発表会に向けて、生徒会役員の僕が采配を振ることになった。
- 社運を賭けたこのプレゼンは、ぜひ君に采配を振ってもらいたい。
「采配」とは
「采配」の意味
「采配を振る」に使われている「采配」という言葉には次のような意味があります。
- 16世紀頃から幕末まで、合戦の際に軍勢を指揮するために大将が用いた道具。
- 指揮・指図のこと。
- はたき、ちり払い。
時代劇の合戦のシーンで、大将が「かかれー!」と言いながら振っている棒状の道具を見たことがあるでしょうか?1で説明されている「采配」とはこれのことです。
木や竹製の30㎝ほどの柄(つか)の先に、紙または色を付けた獣の毛・革等を細長く切って束ねた房を付けたもので、「指揮官」や「軍師」の身分証明として扱われていました。
その道具が指揮に使われたことから、「采配」という言葉が指揮や指図そのものを意味するようになりました。2の意味は、道具の機能から派生した意味と言えるでしょう。それに対して、3の意味は「采配」に形状が似ていることから生まれています。
「采配」を用いた例文
「采配」の2番の意味にある「指揮」や「指図」は次のように用います。
- 見事なご采配、感服いたしました。
- 決勝戦での監督の思い切った采配には驚かされたね。
- 低迷している業績を改善するために、社長自らがこのプロジェクトを采配することとなった。
「采配」と「軍配(ぐんばい)」
戦場で大将が手に持つ物として、「軍配(ぐんばい)」を思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。
「軍配」は正式には「軍配団扇(ぐんばいうちわ)」と言い、楕円形やひょうたん型、円形などの板に柄が付いた道具で、采配と同じく軍勢を指揮するために用いられていました。
現在では相撲の行司(ぎょうじ)が持っていることでお馴染みの道具でしょう。軍配は「振る」ものではなく、「上げる」ものです。試合や勝負などで勝利の判定を下すのに用います。
「軍配を振る」という表現は存在しません。「采配を振る」との混同による誤用なので、注意しましょう。
「采配を振る」の類義語
采配を取る
「采配を取る」は「采配を振る」と同じ意味です。
【例文】
部長の送別会では、君に采配を取ってもらいたい。
采柄(さいづか)を握る
「采柄(さいづか)」とは「采配の柄(持ち手の部分)」のことであり、ここを握るということは、すなわち「采配を振る」と同じ意味になります。
【例文】
課長に昇進したからには、采柄を握る役目をきちんと果たしてもらいたい。
「陣頭指揮(じんとうしき)を取る」
「陣頭指揮を取る」は、文字通り、先陣に立って指揮をするという意味です。
【例文】
新しいプロジェクトでは○○さんに陣頭指揮を取ってもらうことにしたから、みんな協力して成功させよう!
音頭(おんど)を取る
「音頭を取る」の元々の意味は、大勢で歌ったり演奏したりする場合に、曲の調子を示すために出だしを務めることを言います。それが転じて、先頭に立って統率・牽引したりすることを意味するようになりました。
【例文】
課長から、新年会では乾杯の音頭を取るように言われたよ。
統率(とうそつ)する
「統率する」は、集団をまとめて率いることを意味します。
【例文】
あのチームのプレゼンは素晴らしかったね。リーダーの○○さんには、メンバーを統率する力があるね。
「采配を振るう」という誤用
なぜ「采配を振るう」という誤用が生まれたのでしょうか。「腕を振るう」「熱弁を振るう」などの言い回しがあり、この場合の「振るう」には「能力を十分に発揮する」といった意味を持つ言葉です。
このことから、「采配」も「振るう」ものだと連想されて誤用につながったものと考えられます。
文化庁が平成20年度と29年度に実施した「国語に関する世論調査」の中で、この「采配を振る・振るう」について、どちらの言い方を使うかという設問がありました。
- 「采配を振る」を使う 32.2%(平成29年度)、28.6%(平成20年度)
- 「采配を振るう」を使う 56.9%(平成29年度)、58.4%(平成20年度)
- 両方とも使う 1.3%(平成29年度)、 3.8%(平成20年度)
この調査からも分かるように、多くの人が使っているため「采配を振るう」と言っても意味は通じると考えられますが、「采配を振る」が本来の使い方です。