「無碍にする」とは?
「無碍にする」は(むげにする)と読みますが、この言い回し自体は、存在しない誤った用法です。正しくは「無下にする」です。
「無下にする」があまりに頻繁に「無碍にする」と誤用されるため、今回はあえて誤用例のほうをタイトルに挙げている次第です。両者の意味・使い方の違いを明確にしておきましょう。
「無碍」とは
「無碍」とは、本来仏教用語であり、さまたげ、差し障りや障害のないこと、とらわれることなく自由であることを意味します。
「無碍にする」は、一見、障害をなくす、自由にする、などと解釈できそうですが、正しい日本語ではありません。
「無下にする」という言い回しとの混同をしないためにも、「無碍」を詳しく解説したうえで、その使い方を挙げていきます。
「無碍」の使い方
無碍の「碍」は、音読みで(がい・げ)、訓読みで(さまたげる)。意味は、①妨げる、邪魔をする。②支える、支え。「無碍」の「碍」は①の意味によるものです。
「無碍」は、上述したように自由で妨げない、という意味をもちますが、そこから、気ままで勝手であることやそのさま、という意味も派生します。
「無碍」単体よりも、「融通無碍(ゆうずうむげ)」(何にもとらわれることなく、拘ることなく、自由にのびのびと発言したり行動すること)や、「自由無碍(じゆうむげ)」(何にも妨げられず、自由自在であること)という四文字熟語として用いられることが多い言葉です。
「無碍」の文例
- 画家のA氏は、芸術家らしく、実に奔放で無碍な生き方を貫いている。
- 議論の場では協調性も大事だが、融通無碍な意見が出れば出るほど組織は活性化するものだ。
- Bさんは身寄りのない孤高の人だが、それだけに自由無碍な人生を謳歌もしている。
「無下にする」について
「無碍にする」と誤用される、正しい用法の「無下にする」の意味を解説いたします。「無碍」と「無下」がまったく異なる言葉であることが理解できることでしょう。
「無下に」の意味
「無下にする」の「無下に」には、大きくわけて以下の通り3つの意味があります。
- 冷淡で、すげなくそっけないこと。
- まったく、すっかり。間違いでないこと。
- 状態がひどく度外れなこと、むやみなこと。
「無下にする」の無下は下線部1の意味です。
「無下にする」の意味
「無下にする」は、すげなくそっけない態度を示すこと、捨てて顧みないこと、だいなしや無駄にすること、という意味の言い回しです。
「無下に」は、「無下に断る」「無下に扱う」「無下な態度」などのようにも用い、すべて「すげなく、そっけなく」という意味を表します。
また、「好意を無下にする」というケースは「無駄にする」という意味で用いられています。
「無下にする」の文例
(A男)
恵美ちゃんは君を以前から慕っているのだから、そんなに無下にしたら可哀そうだよ。
(B子)
夫とは離婚するつもりなの。彼と暮らした部屋も、無下にしてなんの後悔もないわ。
(C男)
僕はおばあちゃん子だったから、今でも祖母の好意を無下にすることは一切できないんだよ。
「無碍」と「無下」それぞれの類語
「無碍」と「無下」の違いをいっそう明らかにするために、それぞれの類語の意味と使い方を紹介します。
「無碍」の類語
「無碍」の類語としては、「自由自在」や「縦横無尽」が挙げられます。いずれも、何の妨げも囚われもなく、思いのまま、思う存分に物事を行うという意味です。
【文例】
- 日本でのしがらみをすべて絶ち、アメリカで自由自在に生きるつもりだ。
- 実家が名家であり資産家であるばかりか、自身の才能もさまざまに際立つ鈴木君は、いまや世界を渡り歩き縦横無尽に活躍する起業家だ。
「無下」の類語
「無下」の類語としては、以下のような言葉がふさわしいでしょう。
- 冷淡…思いやりなく、同情心、親切心をもたないさま。(「物事に熱意なく、関心・興味なく淡泊なこと」という意味もあります)
- 無駄…役に立たないこと、無益なこと。
【文例】
- せっかく再会できた実のお母さんだ、そんな冷淡な態度はとるべきではないよ。
- 失意にあるときに受けた恩師からの親切や愛情を無駄にすることなく、前を向いて生きるよ。