「最たるもの」とは
「最たるもの(さいたるもの)」は「最たる」と「もの」という二つの言葉から成り立っています。「最たる」は形容動詞「最たり(さいたり)」の連体形で、程度がもっとも甚だしい様子を表す言葉です。
よって、「最たるもの」は「複数のものの中で、程度がもっとも甚だしいもの」を指しています。代表例といえるような際立ったものということですね。
「最たるもの」の使い方
「最たるもの」は「複数のもの」を指す言葉と、その中で「程度が甚だしいもの」を指す言葉とセットで使います。
- 例文:「日本と聞いて外国人がイメージする最たるものは富士山だ」
- 複数のもの=「日本と聞いて外国人がイメージするもの」
- 程度が甚だしいもの=「富士山」
「最たるもの」の使用例
- 現代の文明の利器の最たるものはスマホだろう。
- 受験生だった頃、誘惑の最たるものは恋愛だった。
- 父は仕事一筋で多くのものを犠牲にしてきた。母はその最たるものだった。
- 「私と仕事とどっちが大事?」なんて、うっとおしがられる台詞の最たるものだ。
「最たるもの」の類語
「桁違い」
「桁違い(けたちがい)」とはもともと、数字の位を間違えるという意味ですが、転じて、他のものとの差が大きすぎて比較にならないという意味もあります。
「最たるもの」のように「代表例」というニュアンスはありませんが、あるグループの中で抜き出ているものという点では通じるところがあるでしょう。
【使用例】
- 数いる柔道部員の中でも彼の強さは桁違いだ。
- このスピーカーは視聴した中でも桁違いに音が良い。
「典型的」
「典型的(てんけいてき)」は、ある種類のものの特色や特徴をよく表している様子を指します。「最たるもの」に近い表現と言えるでしょう。
【使用例】
- 彼らは一見、典型的な観光客だった。
- これは典型的なインフルエンザの症状とは違う。
「とりわけ」
「とりわけ」は漢字で表記すると「取り分け」または「取分け」となります。同じようなもの集合の中で、程度が際立っている様子を指す言葉で、「最たるもの」に近い表現です。
【使用例】
- 彼女のファッションはとりわけ目を引いた。
- とりわけ彼は、その研究に熱心だった。
「最たるもの」の用例
『三四郎』
ー夏目漱石『三四郎』ー
【最たるものが指すもの】
- 複数のもの=露悪家
- 程度が甚だしいもの=与次郎
上の引用は夏目漱石による『三四郎』の一節です。読んだことがある人も多い作品でしょう。大学進学を機に、九州の田舎から上京してきた三四郎の、都会で出会うさまざまな人々との交流を描いた小説です。
これは、三四郎が相談相手として頼りにしている広田という高校教師のセリフです。「露悪家(ろあくか)」という即席で作った言葉で、身の回りの人たちを評しています。
露悪家とは、自分の欠点をわざわざさらけ出す人のこと。自分を良く見せようとする偽善家に対する言葉として用いられています。与次郎は授業をさぼる、借金の返済分で馬券を買ってスッてしまうなど、ちょっとだらしない人として描かれています。
『長篠合戦』
ー菊池寛『長篠合戦』ー
【最たるものが指すもの】
- 複数のもの=武田陣営から徳川陣営に寝返った者
- 程度が甚だしいもの=奥平父子
こちらは菊池寛による『長篠合戦』からの引用です。甲斐の武田信玄の死後、後を継いだ勝頼から離反して敵対する徳川家康と親交を結ぶものが多く出ている状態でした。
家康は奥平定能(さだよし)、貞昌(おくださだまさ・のちの信昌)を引き入れようと、織田信長の助言に従い、長女を貞昌に嫁がせるなどして寝返らせることに成功します。
相次ぐ諸侯の徳川帰順に憤った勝頼は、長篠で戦を交えることを決意しました。長篠城を任された貞昌は籠城によって武田軍の攻撃を凌ぎきり、功をあげたのです。