「矢継ぎ早」とは
「矢継ぎ早(やつぎばや)」とは、物事を次から次へと迅速に行うさまを表す言葉です。その字のとおり、「矢(を)継(ぐ)早(さ)」を言い表しています。
「手際が良い」と同じ意味で使われることもありますが、「矢継ぎ早」という言葉で表現される行動の素早さは「手際の良さ」よりもさらにスピード感を印象づけるものです。
多くの場合、相手側の反応を見るより先に次の行動を取るという意味で用いられ、「立て続け」や「畳みかける」などの言葉に言い換えられることもあります。
そのため「矢継ぎ早」な行動は、その関係性次第では、相手に「不躾である」と思わせたり、一方的、攻撃的などの感想を抱かせる可能性があります。
「矢継ぎ早」の用例
- 心当たりのない着信番号にうっかり出てしまい、矢継ぎ早にセールストークを展開されて辟易した。
- 女友達と歩いているところを母に見られたらしく、帰宅するなり矢継ぎ早に質問を浴びせられて困惑している。
- 全くの初心者だと言っているのに、そんなに矢継ぎ早に説明されても一度には理解できないよ。
「矢継ぎ早」の語源
その漢字が示す通り、「矢継ぎ早」という言葉は弓術と深い関わりがあります。「矢継ぎ」とは矢を射る時に弓の弦に矢をあてがう動作のことをさし、もともとはその動作を素早く行うことを「矢継ぎ早」と表現していました。
「矢継ぎ」の素早さが攻撃力に影響をもたらすことは想像に難くないでしょう。実際、戦において弓が主要武器であった時代には、「矢継ぎ」の早さも‘弓の名手‘とされる条件のひとつでした。
それは『平家物語』の一節にみることができます。
訳:競(きおう)という人物は元来、強い弓を引きこなす精鋭の武士であり、続けざまに矢を継いで射る技をもち
<平家物語 巻第四>
次から次へと放たれる矢、そしてそれを可能にする技術を「矢継ぎ早」といいました。「矢継ぎ早」という表現にどこか攻撃性を感じてしまうのには、この由来も影響しているのかも知れませんね。
「矢継ぎ早」の実践例
『平家物語』に描かれているような「矢継ぎ早」の技術を、文字だけでイメージするのは難しいものです。そこで、伝統的に受け継がれてきた騎射の技術「流鏑馬(やぶさめ)」をご紹介します。
「流鏑馬(やぶさめ)」とは、射手が馬に乗って駆けながら鏑矢(かぶらや)で三つの的を次々と射る射技のことをいいます。素早い「矢継ぎ」はこの競技の肝で、射手の高い技術を示すものです。
平安時代末期から鎌倉時代にかけて盛んに行われましたが、その目的は、武士として確実な技術を習得することであったと伝えられています。現代では、全国各地の神社で神事として行われ、その勇壮な姿は観客の感嘆を誘うものです。
「矢継ぎ早」の類語
「矢継ぎ早」と似た意味を持ち、ビジネスシーンでよく使われる言葉に「五月雨式(さみだれしき)」というものがあります。「五月雨式」とは、断続的に長く続く事柄を、旧暦五月の長雨「五月雨」にかけた表現です。
「矢継ぎ早」と「五月雨式」の決定的な違いは、‘動作が繰り返される時間‘にあります。
- 短い時間に繰り返す→「矢継ぎ早」
- 間で途切れながらもだらだらと続く→「五月雨式」
なお、長雨という自然現象に由来する「五月雨式」には、「矢継ぎ早」のような攻撃性を感じさせるものはありません。むしろ一言添えることで、相手の心理的な負担を軽くするのが「五月雨式」という言葉です。