「積もる話」とは
「積もる話」の意味
久しぶりに友人と再会した時に、「あなたと話したいことがたくさんあるんだ。ちょっと座って話さないか?」という流れになることがあるでしょう。長い間会わなかった人との間には、思い出話や近況報告など、話題が尽きないものです。
「積もる話(つもるはなし)」とは、話したいことや話すべきことがたくさんある様子を表すときに使います。
「積もる」とは
「積もる・積る」は、雪や埃のように上から降ってきた細かなものが重なって溜まることを指す言葉です。このほかに、「積もる恨み」と用いられるように目に見えないもの、形のないものが溜まることを指すこともあります。「積もる話」の「積もる」は後者の意味です。
「積もる話」の使い方
話が尽きない様子
上で説明したとおり、「積もる話」は話すことがたくさんある様子を表す言葉。客観的な描写に用いられるだけでなく、会話の中でも使われます。
- 親子水入らずで積もる話をした。
- 積もる話を交わしているとあっという間に目的地に着いた。
- 「積もる話が山のようにあるんだ。」
また、同窓会の幹事などが「積もる話もあるでしょうが、ひとまずお開きとさせていただきます」と言って会を締めるありますね。これは、尽きぬ話に水を差して恐縮ですという意味合いです。
再会を喜ぶ気持ち
「積もる話」は、話が尽きない様子を表すだけでなく、再会の喜びの表現としても用いられます。今は話している場合ではないが、状況が許すならば話に花を咲かせたいところだというニュアンスです。
- 「今度飲みに行かないか?積もる話があるんだ」
- 「積もる話は後にして先を急ごう」
「積もる話」の用例
『夜明け前』
ー島崎藤村『夜明け前 第二部上』ー
『夜明け前』は島崎藤村による長編小説です。木曽中山道の馬籠宿を舞台に、幕末から明治維新にかけての激動の時代を描き出す群像劇。引用箇所の「彼」とは、主人公の青山半蔵を指しています。
半蔵は恩師の墓参りついでの京都方面への旅から戻ったばかり。旅行中は会津戦争、新政府が発行した新貨幣による経済混乱、さらには地元の尾州藩での百姓一揆と事件続きでした。
ですから、半蔵は家族の無事を確かめると、旅先での「つもる話」をする間も無く、今後のことを話し合うために相談相手の伊之助のところへ急いだのです。
『山の神殺人』
ー坂口安吾『山の神殺人』ー
『山の神殺人』は坂口安吾による短編小説です。平作は、何かと警察の厄介になっているドラ息子・不二男に手を焼いています。そこで、山の神の行者の女とその信者に、息子に憑いた狐と死神を落としてくれと話を持ち掛けました。
引用したのは、不二男と懇意にしているヒサを装って出した手紙の文面についての描写。後家のヒサに「つもる話をして縁を結びたい」と言われた不二男は、まんまと嘘に引っかかってしまうのです。
「積もる話」の関連語
「旧交を温める」
「旧交(きゅうこう)」は古い交わり、つまり昔からの付き合いを指す言葉です。「旧交を温める」を昔の交際を再び始めることと説明している辞書と、旧友と再会して親しく話すこととしている辞書があります。
後者の場合は、「積もる話がある」に近い表現と言えるでしょう。「幼馴染と再会して旧交を温めた」のように用いられます。
「炉辺歓談」
「炉辺歓談(ろへんかんだん)」は、炉端(囲炉裏のそば)で打ち解けて楽しく話すことを表す言葉です。会うのは久しぶりだというニュアンスは含みませんが、話に花が咲く様子は「積もる話」に通づるところがあるのではないでしょうか。
「積もる話」と「募る思い」
「積もる話」と音が似ているせいか、「募る話」という表現が散見されます。これは正しい使い方でしょうか?
「募る話」は誤り
「募る(つのる)」という言葉は、「寄付を募る」のように広く呼び掛けて集めるという意味のほかに、「不安が募る」のようにますます激しくなる・いっそうひどくなるという意味があります。
相手への思いが募って、再会したときに積もる話をすることもあるでしょう。しかし、話が募る、募る話という言い回しは誤用です。
「積もる思い」は誤りか?
では、「積もる思い」という用法は誤りでしょうか?「積もる」の用例に「積もる思い」「積もる不安」という用例をあげている辞書もありますので、完全に間違いとはいえません。ただし、慣用的には「積もる思い」よりも、「募る思い」という表現が使われています。