「引く手あまた」:意味
人気がある人であれば「引く手あまただね。」などと言われた経験もあるのではないでしょうか。「引く手あまた」とは、簡単にいうと「誘いをかける人がたくさんいること」という意味です。
「引く手あまた」は、漢字で書くと「引く手数多」です。その画をイメージしてもらえれば、意味が取れるのかもしれません。「引く手」とは「こちらへ来てくれと誘いかける人」、「数多」とは、漢字からも分かるように「数が多いさま」を表しています。
その人気がゆえに、「あちこちから誘われることが多い」「多くの引き合いがあること」を表す言葉です。
「引く手あまた」:使い方
- 彼女は見た目の美しさと、その性格の良さで大学内でも引く手あまただ。
- 彼は社内でも営業成績もトップで、どの部署でも引く手あまたの存在のようだ。
- あの芸人は、グランプリを取って以降、引く手あまたのようで、テレビで見ない日は無い。
- 日本製の自動車は、海外でも引く手あまただ。
- 彼の実力は高く評価されていて、高い契約料にもかかわらず、引く手あまただ。
「引く手あまた」:語源
<大幣(おおぬさ)の引く手数多になりぬれば思へどえこそ頼まざりけれ>
「引く手あまた」と言う慣用句は、この和歌から生まれました。『古今和歌集』にあるこの歌は、ある女性が、在原業平(ありわらのなりひら)にあてて読んだものであるといわれています。
『大幣(お祓いの時に使うもの)が多くの人に引かれるように、あなたもあちこちから誘いを受けています。あなたを慕ってはいるけれど、頼りにできません。』という内容です。
在原業平といえば、『伊勢物語』のモデルとも言われる平安時代を代表するプレイボーイです。伊勢神宮の斎宮とすらスキャンダルを起こしたと言われる艶福家で、多くの女性と関係を持っていたと言います。女性は少し拗ねているようですね。
あちこちの女性から誘われている様子を、大幣がお祓い後、人々に引き寄せられる様子にたとえているのです。その状況を「引く手数多」と表現しています。
+α:返歌
<大幣と名にこそ立てれ流れてもつひに寄る瀬はありてふものを>
『大幣のようだ、と評判になっているようです。しかし、川に流された後、あちこちと漂うあの大幣にも、最後に辿り着く場所というものがあるのですよ』といった内容の和歌です。
前述の女性の歌への業平の返しです。引く手数多な状態については弁明せずに認めつつも、「私が最後に帰る場所はあなたの元なのですよ」と口説いています。さすがのプレイボーイっぷりですね。
「引く手あまた」:類語
引っ張りだこ
「引っ張りだこ」とは「多くの者がその人を自分の側に引き入れようと争うこと」という意味を持つ言葉です。蛸の干物を作る際に、足を引っ張って四方に広げる様子に由来しているといわれています。
需要が高い
「需要」とは「何かを必要として、求めること」です。欲しい、食べたいと思う欲求のことを指します。
「引く手あまたな商品」といえば、消費者から欲されていている、つまり「需要の高い商品」であるといえます。
バズる
「引く手あまた」を、現代における若者言葉に言い換えるのであれば「バズった」というのが、一番近い言葉かもしれません。
「バズる」というのは短期間で爆発的に人気になったもののことを表す言葉です。バズったものや人は、「引く手あまた」であるといえるでしょう。