「いざ知らず」の意味
「いざ知らず」という言葉は、「…はいざ知らず」という形で使われます。その意味は、「…はどうか知らないが」や「…はともかく」というものです。
より日常的な言葉で言えば、「…はさておき」や「…は別として」という意味で使われています。
「いざ知らず」の成り立ち
さて、「いざ知らず」という言葉の成り立ちを考えると、違和感を覚える方もいるかもしれません。というのも、「いざ」というのは、普通「いざ、行こう」のように、物事を始めるときなどに使う「さあ」という意味の感嘆詞です。どうして、「いざ」+「知らず」で「…はどうか知らないが」という意味になるのでしょう。
実は、「いざ知らず」は、元々「いさ知らず」という言葉だったと言われています。そして、この「いさ」と感嘆詞である「いざ」とを混同してできたのが「いざ知らず」という言葉だそうです。
「いさ」とは?
それでは、そもそも「いさ」とはどういった意味の言葉なのでしょう。古語としてご存知の方もいるかもしれませんが、「いさ」は、「知らず」を後ろに伴う形で使われていた副詞です。「いさ~~知らず」という形で、「さあ、どうだろうか」という意味を持っていました。主に、相手の言葉に否定的な返答をするときに使われます。
有名な使用例としては、『古今和歌集』に収録されている紀貫之の一首が挙げられます。
百人一首の三十五番としても有名な和歌です。簡単に現代語訳すると、「人の心というものは、さあどうだか知りません。けれど、この慣れ親しんだ土地の梅の香りは、昔と変わらずに素晴らしく香ってくるものです。」という意味になります。梅の花が香り立つような風情のある和歌ですね。
このように、「いさ知らず」は、「さあ、どうだろうか」という意味の言葉でした。そして、「いさ」が「いざ」と混同されて、現在の形になったと考えられています。
「いざ知らず」の例文
次に、「いざ知らず」の使用例をご紹介します。
- 「子供ならいざ知らず、いい大人がみっともない」
- 「他の人はいざ知らず、私には許せないことだった」
このように、「…はいざ知らず、~~」という形で使われ、後ろの「~~」の部分を強調する意味合いで使われることが多いようです。
「いざ」から始まる言葉
最後に、「いざ知らず」と同じく「いざ」から始まる言葉をご紹介します。
【いざ鎌倉】
この言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。これは、能における「鉢木」という謡曲に由来する言葉だと言われています。元々は、「さあ、鎌倉幕府に一大事が起こった。馳せ参ずべきときだ」という意味でした。これが転じて、現在は、「さあ、大変だ」や「一大事が起こった」という状況を指す言葉として使われています。
【いざさらば】
「仰げば尊し」の歌詞の一節としても有名な言葉です。実は、「いざさらば」には二つの意味が存在します。一つは、別れの言葉としての「それでは、さようなら」という意味です。そして、もう一つは、特に古語として使用される場合に、人を誘ったり、行動しようとしたりする時の「さあ、それならば」という意味があります。
【いざと言う時】
「いざと言う時に頼りにならない」といった形でよく耳にする言葉かもしれません。こちらは、「さあ」というとき、つまり、「事件や一大事が起きた場合」という意味です。
このように、「いざ」から始まる言葉は「いざ知らず」を始めとして多くあります。「いざと言う時」に使い間違えないようにしましょう。