「濡れ鼠」とは
「濡れ鼠」<ぬれねずみ>には二つの意味があります。文字通りの①水に濡れた鼠という意味と、②衣服を着たままの状態で全身がずぶ濡れになるという意味です。
鼠は水に濡れると毛がペッタリと体に張り付いてしまいます。その様子が、ずぶ濡れになって服や髪が体に張り付いている状態に似ているため、①から②に意味が派生したと言われています。
「濡れ鼠」の使い方
「濡れ鼠」は、思いがけず、服ごとずぶ濡れになることを指す言葉です。そのため、水着で海に入ったときや、服を脱いで風呂に浸かったときなどにはときなどには用いられません。
【例文】
- 出先でゲリラ豪雨にあって、濡れ鼠になった。
- 風呂掃除をしていたらシャワーの水をかぶってしまい、すっかり濡れ鼠だ。
- 庭で水遊びをして濡れ鼠になった子供たちを着替えさせないといけない。
「濡れ鼠」の英語表現
「濡れ鼠」を英語に直訳しても通じないので、「(皮膚まで)ずぶ濡れになる」と意訳すると良いでしょう。「ずぶ濡れになる」ことを表すには、'soak'や'drench'を使います。
【例文】
- I got soaked to the skin running in the rain.(雨の中でランニングをしてずぶ濡れになった。→雨の中でランニングをして濡れ鼠になった。)
- I got drenched in the typhoon.(台風でずぶ濡れになった。→台風で濡れ鼠になった。)
なぜ「濡れ鼠」というのか?
古来、鼠は人間の身近にいる動物です。日本にいる鼠には、大きく分けて、森などに棲む野ネズミと、人家やその周辺に棲む家ネズミがいます。
家ネズミに分類されるおもな種は、クマネズミ・ドブネズミ・ハツカネズミです。このうちドブネズミは水辺を好みます。現在でも地下鉄の線路や下水の近くで、濡れそぼっている姿を見かけることがありますね。
昔の人も濡れたドブネズミを目にする機会が多かったのでしょう。濡れ犬や濡れ馬ではなく、濡れ鼠と言うのはそのためだと考えられます。
「鼠」を含むことわざ・慣用句
身近な動物の一種である鼠は、「濡れ鼠」以外にも多くのことわざや慣用句にも取り入れられています。
「袋の鼠」
「袋の鼠」とは、追い詰められて逃げ道のない状態を表したたとえです。「袋の中の鼠」と言うこともあります。刑事ドラマなどで犯人を追い詰めた際のセリフとしても登場することがありますね。
「鼠、壁を忘る 壁、鼠を忘れず」
「鼠、壁を忘る 壁、鼠を忘れず」は、苦しめた側はそのことを忘れているが、苦しめられた側はそのことを長く覚えていることを表しています。
鼠は壁をかじって人家や倉庫に侵入してきますね。鼠はかじった壁のことを忘れていても、壁の方はかじられたことを忘れないことからきたたとえです。
「鼠が塩を引く」
「鼠が塩を引く」<ねずみがしおをひく>とは、小さなことが積もり積もって大事になってしまうことのたとえです。鼠が塩を盗むのは少量ずつだけれど、度重なれば多量となることに由来します。
「鼠算」
鼠は子宝のシンボルとされるくらい繁殖力が強い動物です。「鼠算」(ねずみざん)は、鼠がどんどん増えていくように、数が急激に増えていくことのたとえとして「鼠算式に増える」のように用いられます。
「鼠とり」
「鼠とり」の本来の意味は、鼠を捕まえるための罠です。鼠の通り道に罠を仕掛ける様子が、警察がスピード違反車両を待ち構える様子に似ていることから、交通違反の取り締まりなどを指す俗語として用いられるようになったと言われています。
「鼠の嫁入り」
「鼠の嫁入り」は、迷っても結局は平凡な結果に落ち着くことのたとえとして用いられます。「鼠の嫁入り」と聞いて、ある昔話を思い出す人もいるでしょう。これはその昔話に由来したことわざです。
ある鼠の夫婦が大事な娘のために天下一の婿を取ろうと探していました。太陽のところに行くと、太陽は日光を遮る雲の方が偉いと言うのです。ところが、雲は自分を吹き飛ばす風の方が、風は自分を防ぐ壁の方が偉いと教えました。
彼らが壁のところに行ってみると、自分をかじって穴を開ける鼠の方が偉いと言ったので、結局、同じ仲間の鼠を婿に迎えるというのが『鼠の嫁入り』のストーリーです。