「その実」とは?
「その実」(そのじつ)とは、シンプルにいえば「本当は」という意味の言葉です。少々堅苦しい表現なので、日常会話に登場することはあまりなく、とくに若い人々には馴染みのない表現かもしれません。
とはいえ、年配の方々やあらたまった場などではいまだ用いられることがある言葉ですので、きちんと理解しておきましょう。
「そのみ」と読む場合
「その実」を(そのみ)と読む場合は、シンプルに「そこにある実」のことです。読み方で意味がまったく異なりますので、注意が必要です。
文章を読み上げるときに、「そのじつ」と読むべきところを「そのみ」と読んでしまうと意味がまったく通じなくなります。逆の場合もしかり。「その実」が文章に出てきたときには、文脈を理解して正しく読むように努めましょう。
「その実」の使い方
「その実」は、基本的には、二つの文章の間に入り、接続詞的に意味をつなぐ役目をはたします。一般的なのは「Aだが、その実、Bのようだ。」という形。あるいは、「Aだった。その実、Bのようだ」のようにいったん先行する文章を区切っても構いません。
どちらにせよ、先行する文章とは違ったことを述べる際に使う点は共通です。「Aと思われたが本当はBだった」「Aと思いがちだが本当はB」という文脈ですね。
ふだん聞きなれていない方は、「本当は」の言い換えとして理解すれば、「その実」の意味や使い方が馴染みやすくなるかもしれません。
「その実」の文例
(A男)
中村課長は一見優しい上司のようだが、その実、部下の能力を厳しい眼でじっと見定めているのがわかる。
(B子)
良介君は、恵美ちゃんのことを趣味じゃないと言っていたけれど、その実、好きでたまらず、無視されるのが怖くて近づけなかったみたいだわ。
(C男)
会社の歯車のひとつになるのは嫌だと思っていたんだ。その実、いざ就活となると、組織の一員になることに惹かれる自分もいると気づいたよ。
「その実」の類語
実のところ
「実のところ」は、実は、本当のところ、打ち明けていえば、などの意味をもつ言い回しです。「その実」に比べると、「本心を言えば…」という、心のなかを打ち明けるというニュアンスを多く含みます。
使い方としては、「その実」と同様に、「~だが、実のところ、~だ。」という形が基本のパターンです。
【文例】
- 親にはまだ言えていないのだけれど、実のところ、大学にはほとんど通っていなくて、劇団で役者の下積みをしているんだ。
実際は・実際のところ
「実際は」「実際のところ」は、本当は、実情は、という意味の言い回しです。本心を打ち明けるというニュアンスもないわけではありませんが、「実際問題としては」「本当のところは」というように、事実を伝えるニュアンスを多く含みます。
【文例】
- 田中君は、いつもお金がないと愚痴っているけれど、実際はかなり贅沢な生活を楽しんでいるようだよ。
- 海外旅行先にハワイを選ぶなんてあまりに月並みだと言っていながら、実際のところ、やっぱり一番行きたいのはハワイなのよ。
「その実」まとめ
「その実」という言い回しは、少々堅苦しい響きもあってか、日常会話のなかで見聞きする機会は減っているといえるかもしれません。
しかし、類語の項でご紹介した「実のところ」「実際は」のように、物事の本質的部分、まことの姿を指し示す「実(じつ)」という言葉は、今でも多く使用され、人間の興味を引いてやみません。
多少古めかしくなってしまった言葉だからこそ、ユーモアを交えつつ「~なんだけど、その実!~だったのよ!」のような軽いノリで口にしてみるのも、いつもとは違った会話ができて楽しいかもしれませんね。