「舵」とは
みなさんは「舵(かじ)」と聞いて何を思い浮かべますか?船の操舵室についているハンドルのようなものをイメージする人も多いでしょう。
ところが、実はこれは「操舵輪(そうだりん)」という「舵」の一部分でしかありません。「舵」とは、船を好きな方向に進ませるための装置(仕組み)のことです。
操舵輪を操作によって、船尾に取り付けられた板やスクリューが左右に動きます。すると水流が変化して、船の進行方向が変わるのです。この仕組み全体を「舵」と言います。
「舵を切る」の意味
上記のように、「舵」は進む方向を変えるための装置のこと。「切る」は「ハンドルを切る」のように、乗り物の進む方向を変えて自分の進みたい方へと向けることを指しますから、「舵を切る」は方向転換や進路の変更するという意味です。
進路変更といっても、成り行き任せに変更することではありません。「舵を切る」には、自らの意志で進む方向を変えるというニュアンスがあります。
「舵を切る」の使い方
「舵を切る」は元々は航海用語でしたが、現在での用例は航海の分野に止まりません。企業の経営方針や国家の方針の転換、個人の進路変更など、いずれに対しても「舵を切る」という言葉を使います。
それは、企業や国家、あるいは個人を大海原を進む船に例えているからです。各々が自分の船の行く末を定めて進路を変更することを「舵を切る」と表現します。
多くの場合、「舵を切る」と表現されるのは些細な軌道修正ではなく、劇的な変化。つまり、後々になって、歴史が動いたと言われるようなドラマティックな転換です。
例文
- 前方に氷山を確認したので、あわてて舵を切った。
- 雑誌の読者層を考慮し、子供向け路線に舵を切ることにした。
- これまでの融和路線から大きく舵を切り、敵対する道を選んだ。
「舵を切る」の類語
馬首をめぐらす
進路の転換は「馬首(ばしゅ)をめぐらす」とも言います。「舵を切る」よりも使用頻度の低いようですから、聞いたことがない人もいるかもしれませんね。
「馬首」とは馬の首、「めぐらす」とは回転させること。つまり、「馬首をめぐらす」というのは、手綱を引いて馬の進む方向を変えることです。
軌道修正
軌道とは、列車などが通る線路や天体の運行する道筋などのことです。何かが動くときに通る道であったり、描く動線などを軌道と呼びます。
「軌道修正」とは、進む方向のズレを修正することですから、「舵を切る」のようなスケールの大きい方向転換にはあまり使いません。
「舵」の関連語
舵を取る
「舵を握る」とは間違った方向に進まないように導くことや、動かすことです。「舵を取る」とも言います。
ハンドルを持たずに自動車を運転する人はいません。例え直進するだけだとしても、風にハンドルを取られることもありますからね。船の操縦や企業経営もそうです。進みたい方向に進むためにはしっかりと「舵を握る」必要があります。
よく似た言葉に「手綱を握る」がありますが、こちらはしっかりと制御するという意味です。失言やトラブルがないように気を引き締めるといった意味ですので、混同しないようにしましょう。
面舵いっぱい
ドラマやアニメなどで、船長が「面舵(おもかじ)いっぱい」と言って、操舵輪を激しく回している姿を見たことはありませんか?この「面舵いっぱい」は、ただの掛け声ではありません。
「面舵」とは船を右に方向転換すること、「いっぱい」は操舵輪をめいっぱい動かすことを指します。つまり「面舵いっぱい」とは船を思いっきり右に動かすことですね。
反対に、左に方向転換する時は「取舵いっぱい」と言います。これは正面を子(ね)として十二支で並べた際に左が酉(とり)になるからだそうです。
なお、面舵は、右の卯(う)に向けることを「卯の舵」と言っていたのが「面舵」と変化した言葉だと言われています。
ヨーソロー
方向転換が「面舵」や「取舵」なら、方向を変えずにまっすぐ進む時はなんというのでしょうか?答えは「ヨーソロー」です。これもドラマや映画で聞いたことがあるでしょう。
漢字では「宜候」や「好候」と書き、「よろしくそうろう」と読みます。これが変化して「ヨーソロー」になり、船の進路を変えた後に、その方向で良いという意味で使われていたそうです。
「ヨーソロー」は、本来の意味から転じて、船においてのさまざまな肯定の意を示す掛け声として用いられています。