「一石を投じる」とは?
「一石を投じる」:意味
「一石を投じる」(読み:いっせきをとうじる)とは、ある事柄について、会合の場などで新たな問題や意見を表明して周囲に大きな反響をもたらすという意味です。
今まで一般的に考えられてきたことや、常識とされてきたことを否定するようなアイデアが示され、大きな話題を呼んだときに使われます。議論が活発になり、古い考え方や習慣から脱却して新しい段階に進む端緒となるイメージを持つ言葉です。
極端に革新的な意見を述べて、平穏無事に進んでいた周囲の雰囲気を乱してしまう、というような否定的なニュアンスで使われることもあります。
「一石を投じる」:使用例
【使用例】
- 旧態依然とした経営陣に対して一石を投じる若手社員の意見。
- 彼の発言は学会に一石を投じた。
- 少数意見ではあるが、今までの考え方に一石を投じる斬新な内容だった。
「一石を投じる」:語源
「一石を投じる」という言葉は、水面に石が投げ込まれ、波紋が広がっていくところから来ています。
石を水面に1つ投げ入れるだけで、水面に動きが出て同心円状に波が広がっていきます。投げ入れた場所から外側に向けて、波が何重にも広がっていくのを見ると、「周囲に影響を与えている」状態が感じられます。
「一石を投じる」の「一石」を新しい意見に、「投じる」という動作をものを言うことに例えています。また、波が広がっていく様子を周囲への影響の広がりに見立てています。
1つの意見を表明することで周囲に影響を与え続け、やがて大きな反響を呼ぶという意味はここから来ているのです。
「一石を投じる」の類似表現
「一石を投じる」の類似表現を紹介します。重大な問題への提言や、公の場での厳しい意見を表す言葉です。「耳の痛い意見」「諫言」といったイメージがありますね。
提起する(ていきする)
「提起する」とは、解決すべき問題や検討すべき課題を、会合や公の場に持ち出すことです。「訴訟を起こすこと」や、「(物理的に)持ち上げること」の意味もありますが、これらの用法はあまり見られません。
- 労組交渉で、賃金問題を提起する。
- ゴミの出し方についての苦情を住民会議に提起した。
警鐘を鳴らす(けいしょうをならす)
「警鐘を鳴らす」とは、厳しい発言をしたり、意見を表明したりすることで人々に注意をうながすことです。予想される芳しくない事態について、警告をする様子を表します。
- 対策に警鐘を鳴らしてきたが、効果はなかった。
- クラスのみんなの楽観的な考え方に警鐘を鳴らす。
「一石を投じる」の反対表現
「一石を投じる」とは反対の意味になるような語句を紹介します。問題に気づいていても積極的に解消しようとせず、無視するような無責任な様子が見られる言葉です。
棚上げ(たなあげ)
「棚上げ」とは、トラブルや解消すべき問題があっても、見て見ぬふりをしてそのままにしてしまっている様子を表す言葉です。
- 本来考えるべき問題を棚上げにして、些事にこだわった議論を繰り返す。
- 昨年来、棚上げになっている案件がある。
店晒し(たなざらし)
「店晒し」は、「店曝し」や「棚晒し」などと表記することもあります。お店の棚に並んだまま売れ残っている商品のように、解決されていない問題が、手つかずのまま放置されている状態でいる、という意味です。
- A君の処遇は店晒しになったままだ。
- 環境問題を店晒しにすると、未来の子どもたちに大きな負担をかけてしまうことになる。
「一石を投じる」と「波紋」
「一石を投じる」の類語として、「波紋を投じる」・「波紋を投げる」という表現を見かけることがあります。比喩表現に厳密性を求めるのもおかしな話ですが、意味を考えると不自然な表現ですね。
「波紋」とは水面に物を落としたときになどに、同心円状に波が広がっていく様子を表す言葉です。波が円を描くように模様が広がっていくことから派生して、「周囲に影響を与えて大きく状況を動かす」という意味でも使われるようになりました。
水面の様子や、影響が広がっている状況などを「投げ入れる」のはおかしいですよね。「一石を投じる」と混同した誤用と考えるべきかもしれません。
「波紋」を使った例
「波紋」を使って「一石を投じる」という意味に近くなるように表現するなら、下記のような使い方が適切ではないでしょうか。
- 彼女の言動により、クラス内に波紋が生じた。
- 首相の発言で政界に波紋が広がっている。
- 若手の実業家の物言いが財界に波紋を起こしている。