憚る(はばかる)とは?憚る(はばかる)の意味
遠慮する、気兼ねする、差し障りを恐れて控える、また逆に幅を利かせる、のさばるといった意味を持つ動詞
憚る(はばかる)の説明
「憚る」は「はばかる」と読み、主に二つの意味を持っています。一つは「遠慮する」「気兼ねする」という控えめなニュアンスで、例えば「人目を憚る」のように使われます。もう一つは「幅を利かせる」「のさばる」という、むしろ積極的な意味合いです。ことわざ「憎まれっ子世に憚る」はこちらの意味で使われています。また、「憚りながら」という定型句では、遠慮しながらも意見を述べる際の謙遜表現として用いられます。さらに面白いのは、名詞形の「憚り」には「便所」という意味もあること。人目を避ける場所という発想から生まれた表現です。
遠慮と積極性という一見相反する意味を持つところが、日本語の豊かさを感じさせますね。
憚る(はばかる)の由来・語源
「憚る」の語源は、「幅(はば)」と関係があると考えられています。もともと「幅」が広がるイメージから、「自由に振る舞う」「のさばる」という意味で使われていました。そこから転じて、周囲への配慮から行動を控える「遠慮する」という意味も生まれました。漢字の「憚」は、「りっしんべん(心)」と「単(ひとつ)」の組み合わせで、心が一つに集中して慎む様子を表していると言われています。
一つの言葉に相反する意味が共存するなんて、日本語の豊かさを感じますね。
憚る(はばかる)の豆知識
面白いことに、「憚る」には全く逆の二つの意味があります。一つは「遠慮する、控える」という消極的な意味、もう一つは「幅を利かせる、のさばる」という積極的な意味です。また、「憚り」という名詞形には「便所」という意味もあり、人目を避ける場所という発想から来ています。さらに、「憚りながら」という表現は、謙遜しながらも自分の意見を述べる際の便利なクッション言葉として、ビジネスシーンでも使われています。
憚る(はばかる)のエピソード・逸話
作家の夏目漱石は、『こゝろ』の中で「憚る」という言葉を効果的に使用しています。主人公が先生との関係に悩む場面で、「人目を憚る」ように振る舞う描写があり、当時の人間関係の繊細さを表現しています。また、政治家の原敬は日記の中で、自身の行動について「憚るところなく」と記しており、遠慮なく行動する姿勢を示していました。このように、文学作品や歴史的人物の記録を通じて、「憚る」という言葉が日本の文化や心情を深く表現してきたことがわかります。
憚る(はばかる)の言葉の成り立ち
言語学的に見ると、「憚る」は日本語の特徴的な「対義語的発展」の好例です。一つの語が相反する意味を持つ現象で、英語の「cleave(切り裂く/くっつく)」などにも見られます。また、この言葉は敬語表現や謙遜表現と深く結びついており、日本の「恥の文化」や集団調和を重視する社会性を反映しています。歴史的には、上代日本語から確認できる古い語彙で、時代とともに意味が拡大・変化してきたことが文献からわかります。
憚る(はばかる)の例文
- 1 上司の前では意見を言うのを憚ってしまい、後から後悔することってありますよね。
- 2 SNSに愚痴を書きたいけど、知り合いに見られるのを憚って結局やめちゃうの、あるあるです。
- 3 電車で大きな声で電話している人を見かけると、注意するのを憚って見て見ぬふりをしがちです。
- 4 久しぶりに会う友人に、太った?と言うのは憚られるから、別の話題を探すことあります。
- 5 会議で反対意見を言おうとしたら、周りの空気を憚ってしまい、賛成に回ってしまうこと、ありませんか?
「憚る」の使い分けと注意点
「憚る」を使う際には、文脈によって意味が大きく変わることに注意が必要です。特に「遠慮する」と「のさばる」という正反対の意味を持つため、誤解を生まないように使い分けることが大切です。
- 謙遜や丁寧さを表現したい場合は「憚りながら」などの定型表現を使う
- 否定的なニュアンスを避けたい時は「遠慮する」や「控える」と言い換える
- 文章では前後の文脈で意味が明確になるように配慮する
- 口頭ではイントネーションや表情でニュアンスを補う
関連用語と類義語
「憚る」と関連する言葉には、以下のような類義語や対義語があります。それぞれ微妙なニュアンスの違いを理解することで、より適切な言葉選びができるようになります。
| 言葉 | 読み方 | 意味 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 遠慮する | えんりょする | 控えめにする | 一般的で使いやすい表現 |
| 忌憚 | きたん | 遠慮すること | 改まった場で使われる |
| 躊躇う | ためらう | 迷って決断できない | 行動前的な逡巡を表す |
| 臆する | おくする | 恐れてためらう | 恐怖や不安が背景にある |
現代における使用頻度と変化
「憚る」は現代ではやや格式ばった印象を与える言葉ですが、ビジネスシーンや公式の場では依然として重要な表現です。特に「憚りながら」は、謙虚さを示しつつ意見を述べる際の効果的なクッション言葉として活用されています。
近年ではSNSなどのカジュアルなコミュニケーションではあまり使われなくなりましたが、その分、改まった場で使うと知的で丁寧な印象を与えることができる言葉です。また、文学作品や新聞記事などでは、今でも頻繁に登場する表現となっています。
よくある質問(FAQ)
「憚る」と「遠慮する」の違いは何ですか?
「遠慮する」が単に控えめにすることを指すのに対し、「憚る」は周りの目や評価を気にして特に行動を控えるニュアンスがあります。より強いためらいや警戒心を含む表現です。
「憚りながら」はどんな場面で使えばいいですか?
目上の人や公式の場で、意見を述べる前に謙遜の気持ちを表すクッション言葉として使います。例えば「憚りながら申し上げますと」のように、遠慮しながらも発言する際の丁寧な表現です。
なぜ「憚る」に相反する意味(遠慮する/のさばる)があるのですか?
語源の「幅」から、自由に振る舞う意味が先にあり、そこから周囲を気にして控える意味が派生したと言われています。日本語にはこのように対照的な意味を持つ言葉がいくつか存在します。
ビジネスシーンで「憚る」を使うのは適切ですか?
適切です。特に「憚りながら」は、謙虚さを示しつつ意見を伝える際の丁寧な表現として、会議や商談など格式ばった場面でよく用いられます。
「憚り様」という表現は今でも使われますか?
現代ではほとんど使われなくなり、「恐れ入ります」や「申し訳ありません」などに置き換えられています。主に古典文学や時代劇などで見かける古風な表現です。