馳せるとは?馳せるの意味
下一段活用の動詞で、主に「馬や車などを速く走らせる」「遠くのことに思いを巡らせる」「広く知らしめる」の3つの意味を持ちます。
馳せるの説明
「馳せる」は、もともと馬を疾走させる様子を表す言葉でしたが、現代ではより広い意味で使われています。まず物理的な移動として、馬や車などを速く走らせる意味があります。次に、心の動きとして、遠く離れた場所や過去・未来に対して思いを向ける表現として用いられます。さらに、名声や評判が広く知れ渡る様子も「馳せる」で表現できます。例えば、故郷に思いを馳せたり、世界的に名を馳せた人物について語ったりする際に使われる、情緒豊かで深みのある言葉です。
昔ながらの日本語の美しさを感じさせる素敵な言葉ですね。会話で使うと、ぐっと知的な印象を与えられそうです。
馳せるの由来・語源
「馳せる」の語源は、古代中国の漢字「馳」に遡ります。この字は「馬」偏に「也」と書く形声文字で、もともと「馬を速く走らせる」という意味を持っていました。日本に伝来した後、平安時代頃から物理的な移動だけでなく、心が遠くへ向かう様子や名声が広がる様子を表現するようになり、現代のような多様な意味合いが確立されました。時間の経過とともに、馬から車へ、そして抽象的な概念へと適用範囲が広がっていったのです。
一つの言葉が時代を超えてこれほど多彩な意味を獲得するなんて、日本語の豊かさを感じますね。
馳せるの豆知識
面白いことに、「馳せる」は現代でも競馬の実況中継で使われることがあります。「トップホースが最後の直線で一気に駆け馳せる!」といった表現で、語源の意味を色濃く残しています。また、文学作品では夏目漱石や森鴎外など多くの文豪がこの言葉を好んで使用しており、特に「思いを馳せる」表現は叙情的な場面で頻繁に見られます。さらに、英語の「gallop」や「dash」とはニュアンスが異なり、日本語ならではの情緒的な広がりを持つのが特徴です。
馳せるのエピソード・逸話
ノーベル賞受賞者の山中伸弥教授は、iPS細胞の研究で世界に名を馳せましたが、実は医学部時代はラグビー部に所属していて、けがで選手生命を絶たれた経験があります。その挫折から研究の道に思いを馳せ、再生医療の分野で偉大な功績を残しました。また、作家の村上春樹は作品の中で頻繁に「馳せる」を使い、『ノルウェイの森』では「彼女のことを思い馳せる時間が、一日の中で最も長かった」という表現で主人公の心情を繊細に描写しています。
馳せるの言葉の成り立ち
言語学的に見ると、「馳せる」は下一段活用の動詞で、本来の意味から転じてメタファーとして機能する興味深い例です。認知言語学の観点では、物理的な移動を表す語が抽象的な概念を表現するのに用いられる「概念メタファー」の典型例と言えます。また、日本語の動詞が持つ多義性の良い例でもあり、一つの語が時間の経過とともに意味を拡張していく過程を示しています。歴史的には、上代日本語では主に物理的な移動の意味で使われていましたが、中古日本語以降、心理的な働きを表す用法が発達し、現代では比喩的表現として確立されています。
馳せるの例文
- 1 学生時代の写真を見るたびに、あの頃の純粋な友情に思いを馳せてしまう
- 2 久しぶりに実家に帰ると、子どもの頃の懐かしい記憶に思いを馳せる時間が増える
- 3 終電に間に合うように駅まで猛ダッシュ、まさに命を馳せる思いだった
- 4 同窓会で久しぶりに会った友達が、今や業界で名を馳せる人物になっていて驚いた
- 5 満天の星空を見上げながら、宇宙の果てに思いを馳せるのはなんともロマンチックだ
「馳せる」の使い分けポイント
「馳せる」を使いこなすには、3つの主要な意味を場面に応じて使い分けることが大切です。それぞれのニュアンスの違いを理解することで、より豊かな表現が可能になります。
| 意味 | 使用場面 | 例文 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 物理的な移動 | 文学的作品や詩的な表現 | 「馬を馳せて丘を越える」 | 日常会話では「走らせる」の方が自然 |
| 思いを向ける | 叙情的な文章や心情描写 | 「故郷に思いを馳せる」 | 対象は時間的・空間的に遠いもの |
| 名声を広める | 人物評や業績紹介 | 「世界に名を馳せる」 | 良い意味でも悪い意味でも使用可 |
特に「思いを馳せる」は、単なる「考える」よりも深い情感を含むため、文学作品や改まった場面で効果的です。逆にカジュアルな会話では「思い出す」や「考える」の方が適している場合があります。
関連用語と表現
「馳せる」と関連する言葉や類似表現を知ることで、日本語の表現の幅が広がります。それぞれ微妙なニュアンスの違いがあるので、状況に応じて適切に選択しましょう。
- 「疾駆する」:馬や車などを速く走らせる(「馳せる」よりスピード感が強調される)
- 「想いを巡らせる」:様々なことをあれこれ考える(「馳せる」より広範囲に思考が及ぶ)
- 「名を轟かせる」:評判が大きく広まる(「馳せる」より派手で劇的な印象)
- 「心を寄せる」:特定の対象に愛情や関心を向ける(より個人的で親密なニュアンス)
馬を馳せて千里の外に至るも、歩を積まねば到るべからず
— 荀子
この故事成語は、大きな目標も小さな努力の積み重ねが重要であることを「馳せる」を使って表現しています。このように、昔から「馳せる」は比喩的な表現としても重宝されてきました。
歴史的な変遷と現代での用法
「馳せる」は時代とともにその用法を変化させてきた興味深い言葉です。古代から現代まで、どのように使われてきたのかをたどってみましょう。
- 上代~中古:主に馬を走らせる物理的な意味で使用
- 中世~近世:比喩的用法が発達し、「思いを馳せる」表現が登場
- 近代:文学作品中で情緒的な表現として頻繁に使用されるように
- 現代:3つの意味が確立され、ビジネスから日常会話まで幅広く使用
現代ではSNSなどの影響もあり、「名を馳せる」という表現がインフルエンサーや話題人物について使われる機会が増えています。また、ビジネスシーンでは「将来の可能性に思いを馳せる」といったように、戦略的な思考を表現するのにも用いられています。
最近では「タイムラインに思いを馳せる」(SNSの投稿を見て過去を回想する)など、デジタル時代ならではの新しい使い方も生まれつつあります。このように「馳せる」は時代に合わせて柔軟に意味を拡張し続けているのです。
よくある質問(FAQ)
「思いを馳せる」と「思いを寄せる」の違いは何ですか?
「思いを馳せる」は時間的・空間的に遠い対象に対して心を向けるニュアンスで、故郷や過去などに使います。一方「思いを寄せる」は特定の人物への愛情や関心を示す場合が多く、より個人的で近しい関係を連想させます。
「名を馳せる」は悪い意味でも使えますか?
はい、使えます。「悪名を馳せる」のように、悪い評判が広く知れ渡る場合にも使用可能です。例えば「彼は詐欺師として悪名を馳せた」といった使い方をします。
「馳せる」をビジネスシーンで使うことはできますか?
可能です。例えば「新製品が世界中に名を馳せる」「将来の市場動向に思いを馳せる」など、比喩的な表現としてビジネス文書や会話で使用できます。ただし格式ばった印象を与えるので、状況に応じて使い分けましょう。
「馳せる」の対象は人以外でも大丈夫ですか?
はい、問題ありません。場所(故郷に思いを馳せる)、時代(未来に思いを馳せる)、概念(可能性に思いを馳せる)など、抽象的なものに対しても広く使うことができます。
「車を馳せる」という表現は現代でも自然ですか?
やや文学的で古風な表現ですが、詩的な文章や強調したい場面では使われます。日常会話では「車を飛ばす」などの方が自然ですが、小説や歌詞などでは「馳せる」が好まれる傾向があります。