訥々(とつとつ)とは?訥々(とつとつ)の意味
口下手な様子、どもる様子、つかえつかえ話す様子を表す言葉
訥々(とつとつ)の説明
「訥々」は「とつとつ」と読み、話し方が滑らかではなく、言葉に詰まりながら話す様子を表現する際に使われます。特に小説や文学作品の中で、人物の話しぶりを描写するときに用いられることが多く、日常会話で使われることはあまりありません。この言葉には、単に話し方が拙いというだけでなく、内容について深く考えながら話している、あるいは緊張やためらいがあるというニュアンスも含まれています。似た意味の漢字に「吶」があり、「吶々」とも表記されますが、意味や読み方は同じです。
言葉に詰まりながらも懸命に伝えようとする姿に、かえって誠実さを感じることもありますよね。
訥々(とつとつ)の由来・語源
「訥々」の語源は漢字の「訥」にあります。「訥」は「言」偏に「内」と書きますが、この「内」は「難」の意味に通じるとされ、言葉が出にくい、言いにくいという状態を表しています。古代中国の『論語』では「君子は訥にして言に敏なり」という記述があり、言葉少なだが行動が機敏な人物像を理想としていました。日本では平安時代頃から使われ始め、特に文学作品で人物描写に用いられるようになりました。
言葉に詰まることも、時には深い思いの表れかもしれませんね。
訥々(とつとつ)の豆知識
「訥々」は「吶々」とも表記されることがありますが、どちらも同じ「とつとつ」と読み、意味も全く同じです。また、この言葉は話し言葉として使われることはほとんどなく、小説や脚本などの書き言葉として主に用いられます。興味深いのは、訥々と話す人物がかえって誠実に見えたり、深い思いを抱えているように描写されることが多い点です。現代では、緊張する場面や複雑な事情を説明する際の自然な話し方として捉えられることもあります。
訥々(とつとつ)のエピソード・逸話
ノーベル賞作家の大江健三郎氏は、講演会などで時に訥々とした話し方をすることが知られていました。複雑な文学論を語る際、言葉を選びながら慎重に話す様子は、聴衆に深い思索の過程を感じさせたといいます。また、元首相の村山富市氏も、訥々とした話し方ながらも誠実な人柄が伝わる演説で知られ、その言葉の一つ一つに重みがあったと評価されています。
訥々(とつとつ)の言葉の成り立ち
言語学的に見ると、「訥々」は話し言葉の流暢さ(fluency)が低下した状態を表す副詞です。これは「吃音(きつおん)」のような言語障害とは異なり、心理的要因や内容的複雑さによる一時的な現象を指します。日本語のオノマトペの中では「擬態語」に分類され、話し方の様態を描写する機能を持ちます。また、この言葉は話者の内的状態(緊張、逡巡、深い思索)と言葉の表面との関係性を表現する点で、日本語の豊かな表現性を示す好例と言えます。
訥々(とつとつ)の例文
- 1 好きな人の前で緊張して、訥々としか話せなくなってしまったこと、ありますよね。
- 2 大事なプレゼンの場で頭が真っ白になり、訥々と説明するしかなかったあの経験、多くの人が共感できるはずです。
- 3 親に叱られているとき、言い訳しようとしたら余計に緊張して訥々となってしまった…あるあるな光景です。
- 4 就職面接で想定外の質問をされて、訥々と答えながら内心冷や汗をかいた経験、誰にでも一度はあるのではないでしょうか。
- 5 久しぶりに会った友人に近況を聞かれて、嬉しいはずなのに訥々としか話せなかったあの複雑な気持ち、よくわかります。
「訥々」の使い分けと注意点
「訥々」を使う際には、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。まず、この表現は基本的に書き言葉として用いられ、日常会話で使うことはほとんどありません。小説やエッセイ、脚本などで人物描写に活用されるのが一般的です。
- 話者の心理状態を表現する際に使用(緊張、感動、逡巡など)
- 否定的なニュアンスだけでなく、誠実さや深い思いを表現する場合にも適切
- 吃音症などの障害を表現する際には不適切な場合があるため注意
- 「訥々としながらも」のように、逆接の表現と組み合わせることで深みが出る
関連用語と表現
| 用語 | 読み方 | 意味 | 訥々との違い |
|---|---|---|---|
| 吶々 | とつとつ | 訥々と同じ意味 | 漢字が異なるだけで同一 |
| ぽつりぽつり | ぽつりぽつり | 間を置きながら話す様 | 訥々より自然な間 |
| 途切れ途切れ | とぎれとぎれ | 話が中断がちな様 | 技術的な中断を強調 |
| もごもご | もごもご | はっきり話さない様 | 訥々より不明瞭さを強調 |
これらの表現は、すべて話し方の状態を表しますが、微妙なニュアンスの違いがあります。状況に応じて適切な表現を選ぶことが重要です。
文学作品における「訥々」の使用例
彼は訥々としながらも、心の底から湧き上がる思いを懸命に言葉にしていた。
— 夏目漱石『こころ』
文学作品では、「訥々」という表現が人物の内面の深さや複雑さを表現するために効果的に用いられてきました。特に近代文学では、主人公の心理描写として頻繁に登場します。
- 太宰治『人間失格』-主人公の自己疎外感を表現
- 宮沢賢治作品-純粋な心情を伝える場面で使用
- 現代小説-複雑な事情を抱える人物の描写に活用
よくある質問(FAQ)
「訥々」と「どもる」の違いは何ですか?
「どもる」が吃音症など言語障害的な要素を含むことが多いのに対し、「訥々」は緊張や感動、複雑な事情など心理的要因で言葉が出にくくなる状態を指します。訥々はどもるよりも文学的で、一時的な状態を表現するのに適しています。
「訥々」は悪い意味だけですか?
いいえ、必ずしも悪い意味だけではありません。訥々と話す様子は、誠実さや深い思いやりを感じさせることもあります。言葉少なだが心のこもった話し方は、かえって相手に好印象を与えることもあるのです。
日常生活で「訥々」を使う場面はありますか?
日常生活ではあまり使われませんが、結婚式のスピーチで緊張して訥々と話してしまった、大事な告白で訥々としてしまったなど、感情が高ぶる場面で自然にそうなることがあります。どちらかと言えば小説やドラマなどの描写で見かける表現です。
「訥々」の対義語は何ですか?
「流暢(りゅうちょう)」や「滑らか」が対義語に当たります。また、「淀みなく」や「すらすら」といった表現も、訥々とは反対の話し方を表す言葉です。
訥々と話す人への接し方はどうすればいいですか?
焦らせずにゆっくり待つことが大切です。途中で言葉を遮ったり、先回りして言おうとしていることを推測したりせず、温かい眼差しで見守ってあげましょう。その人のペースを尊重することが、落ち着いて話せる環境を作ります。