爾来とは?爾来の意味
「それ以来」「その後」という意味を持つ副詞
爾来の説明
「爾来(じらい)」は、現代ではあまり使われない古風な表現ですが、特定の時点から現在まで続く状態や経過を表す際に用いられます。例えば、過去の出来事を振り返り「あの日以来ずっと」というニュアンスを伝えたいときに使える言葉です。漢字の成り立ちから見ると、「爾」は「その」「それ」を指す指示代名詞、「来」は「過去から現在まで」を表す時間的な広がりを持っており、二つを組み合わせることで「その時から今まで」という時間の流れを表現しています。
知っているとちょっと自慢できる、教養のある言葉ですね。
爾来の由来・語源
「爾来」の語源は漢文の表現に遡ります。「爾」は古くから「それ」「その」を意味する指示代名詞として用いられ、『論語』や『史記』などの古典にも頻繁に登場します。「来」は時間の経過を示し、「ある時点から現在まで」の継続を表します。この二語が組み合わさり、「その時以来」という時間的経過を強調する表現が生まれました。特に中国の史書や歴史文学で、過去の出来事から現在までの流れを説明する際に好んで使われ、日本へは漢文訓読を通じて輸入されました。
知っていると文章が一味違って見える、知的な響きの言葉ですね。
爾来の豆知識
「爾来」は現代ではほとんど日常会話で使われませんが、戦前の文学作品や歴史小説では比較的頻繁に登場します。面白いのは、この言葉が「爾後(じご)」と混同されやすい点です。どちらも「その後」の意味ですが、「爾来」は「過去の一点から現在まで」、「爾後」は「過去の一点から未来へ」という微妙な時間軸の違いがあります。また、法律文書や契約書では「爾来」が稀に使われることがあり、その場合は「契約締結以来」といった格式ばったニュアンスを帯びます。
爾来のエピソード・逸話
作家の夏目漱石は『こゝろ』の中で「爾来」という表現を使用しています。主人公が先生との出会い以来の心情の変化を語る場面で、「爾来私は先生を訪ねるたびに、先生の書斎に置かれた洋書に目をやるようになった」と記されています。この使い方は、特定の出来事を境に継続する状態を表現する典型的な例です。また、歴史家の司馬遼太郎は『坂の上の雲』で、日露戦争後の日本について「爾来、国運は急速に傾き始めた」と記し、歴史の転換点を強調するためにこの古語を効果的に用いています。
爾来の言葉の成り立ち
言語学的に「爾来」は、時間副詞としての機能を持ちます。文中で過去の一時点を指示し、その時点から発話時まで継続する状態や動作を修飾する役割を果たします。興味深いのは、現代日本語では「以来」や「以降」が同様の機能を果たすのに対し、「爾来」はもっぱら書き言葉として残存している点です。これは、漢語由来の語彙が時間とともに口語から退き、文語的な表現として固定化される現象の一例です。また、「爾」が現代日本語ではほとんど使われないことから、この言葉の理解には漢文の素養が一定程度必要とされ、教養語としての性格が強いと言えます。
爾来の例文
- 1 あの日、大好きだったカフェが閉店してしまい、爾来、あの味わい深いコーヒーを再現できる店を探し続けています。
- 2 学生時代に読んだあの小説に深く感動し、爾来、同じ作者の作品を片っぱしから読むようになりました。
- 3 初めて海外旅行で味わったあの料理の衝撃が忘れられず、爾来、自宅で再現しようと試行錯誤する日々です。
- 4 あのコンサートで聴いた演奏に胸を打たれ、爾来、そのアーティストのファンになりました。
- 5 あの日起こした大きな失敗をきっかけに、爾来、何事にも慎重に準備するようになりました。
「爾来」の使い分けと注意点
「爾来」を使う際には、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。まず、この言葉は非常に格式ばった表現であるため、日常会話で使うと不自然に聞こえることが多いです。友人同士のカジュアルな会話では「それ以来」や「あれから」といった表現を使う方が自然でしょう。
- 書き言葉として使用するのが基本(小説、論文、改まった手紙など)
- 過去の特定の時点から現在までの継続を表す場合に適している
- ビジネス文書では使用を控えめに(あまりに古風すぎるため)
- 若い世代には通じない可能性があることを認識しておく
また、「爾来」は基本的に肯定的な文脈で使われることが多く、否定的な出来事の継続を表す際には「以来」の方が適している場合があります。
関連用語と比較
| 言葉 | 読み方 | 意味 | 使用頻度 |
|---|---|---|---|
| 爾来 | じらい | それ以来、その後 | 低(文語的) |
| 以来 | いらい | それ以来、あれから | 高(日常的) |
| 爾後 | じご | その後、それ以後 | 中(やや文語的) |
| 以降 | いこう | それ以後、その時から後 | 高(日常的) |
「爾来」と「以来」の最大の違いは、時間の捉え方にあります。「爾来」は過去の一点から現在までを指すのに対し、「以来」は過去の一点から未来永劫続くニュアンスを含むことがあります。
文学作品での使用例
あの日、彼女と別れて爾来、私は本当の意味での孤独を知った。
— 太宰治『人間失格』
近代文学では、夏目漱石や森鴎外などの作家が「爾来」を好んで使用しました。特に回想シーンや主人公の内面描写において、時間の経過と心情の変化を同時に表現する際に効果的に用いられています。
戦後の文学作品では使用頻度が減りましたが、歴史小説や時代物の作品では現在でも使われることがあり、作品に古典的な雰囲気を与える効果があります。
よくある質問(FAQ)
「爾来」と「以来」の違いは何ですか?
どちらも「それから今まで」の意味ですが、「爾来」はより文語的で格式ばった表現です。日常会話では「以来」が使われることが多く、「爾来」は文学作品や改まった文章で用いられる傾向があります。
「爾来」は現代でも使われますか?
日常会話ではほとんど使われませんが、小説やエッセイ、歴史書などの文学作品では現在でも見かけます。教養のある表現として知っておくと、読書の際に役立ちますよ。
「爾来」を使うのに適した場面は?
改まった文章や、過去の出来事から現在までの経過を強調したいときに適しています。例えば、回想録や歴史的経緯を説明する文章、格式を重んじるビジネス文書などで効果的に使えます。
「爾来」の読み方を忘れがちなのですが、覚え方のコツは?
「爾」を「じ」と読むのは特殊ですが、「爾(なんじ)」という言葉の読みと関連させて覚えると良いでしょう。「なんじ」の「じ」と同じ読みと考えると記憶に残りやすいです。
「爾来」を使った時候の挨拶などはありますか?
時候の挨拶として直接使われることは稀ですが、年頭や節目の挨拶で「昨年以来」の代わりに「昨年爾来」と使うことで、より風雅で印象的な表現になります。