「馳せ参じる」とは?
「馳せ参じる」は、見た目も響きも、いかにも古い時代の言い回しです。時代劇などではよく見聞きする言葉ですね。
現代では、大急ぎで目上の存在のもとへ駆けつける、という意味で用いられますが、もともとは「馳」に馬偏があるように、馬で主君の元へ駆けつける、という意味でした。
したがって、時代劇や大河ドラマでも、「馳せ参じる」という言葉が登場する場面は限られます。戦がはじまるまえに、家臣たちが主君のもとへ続々と馬で「馳せ参じる」シーンがいくつも思い出されるのではないでしょうか。
「馳せ参じる」の字義と由来
「馳」という字には、「走ること」「馬などを走らせる」という意味があります。身分の高い人が馬を走らせる様子や、家臣が主君のもとに(場合によっては実際に馬に乗って)駆けつける様子を表す言葉でした。
「参じる」は「現れる」という言葉の謙譲語です。したがって、「馳せ参じる」は、目下の者が目上の者のもとに大急ぎで駆けつけるという意味にのみ使われ、その逆の立場では用いることができません。
「馳せ参じる」の使い方
「馳せ参じる」は古き日本の言葉で、ほぼ時代劇でしか使われない、日常会話で、ましてビジネスシーンなどでは使わないほうが賢明な言葉だ、と考える人々もいるようです。
ところが、なかなかどうして、「馳せ参じる」は現代日本においても、れっきとした居場所がある言葉です。それどころか、使うべきではないとされるビジネスシーンで、実はもっとも使われるとも言えます。
ただしオフィシャルな場、つまり正式な会議や書面などで用いるには適した言葉ではなく、ふざけている、と見なされてしまう可能性があるので、シチュエーション選びは重要です。
なぜビジネスシーン(くだけた場、親しい間柄などの限定で)などで「馳せ参じる」が今でも用いられるのでしょうか。それは、「目下の者が目上の者のために駆け付ける」という意味があるからこそなのです。
親しく信頼関係ある間柄であれば、ユーモアを交えるかたちで、上司のために労力おしまず駆けつけます、顧客や取引先のために何を置いても伺います、などの「忠誠心」「誠意」をライトに示すことができるる便利な言い回しなのです。
「馳せ参じる」の文例
(A男)
ライト社専務との接待ゴルフに同伴せよとの鈴木部長のお達し、忠実な部下山本としては、休日返上で馳せ参じますよ。
(B子)
由美先輩、合コンの幹事させられているの。頭数が足りないと、私に彼がいるのを知りつつ参加要請があって、日ごろお世話になっているから「馳せ参じまする!」と即答したわ。
(C男)
森田様からのご商談お望みとありますなら、なにを置いても馳せ参じます!さっそく今日の午後はいかがでしょう?
「馳せ参じる」の類語
「急行(きゅうこう)いたします」は、急いで伺います、という意味の言い回しです。「馳せ参じる」の「参じる」が謙譲語なため、「急行」にも同様に「いたします」を用いて、目上や礼を尽くすべき相手への言葉として類語の扱いとなります。
単なる「急行する」は、さまざまな場面で使うことができます。とくに、緊急発動が多い警察や救急隊員などの現場では、頻繁に登場しているはずの言葉です。
- ただいま御社に伺う電車の車中なのですが、踏切事故によって走行停止するようです。下車してタクシーで急行いたしますが、多少の遅延、お許しいただけますでしょうか?
- エレベーターが稼働しないとのこと、係員が急行いたしますので、いましばらくお待ちください。