厭うとは?厭うの意味
嫌がって避けること、また、大事にかばうこと
厭うの説明
「厭う」は「いとう」と読み、基本的には「嫌って避ける」「避けたいと思う」という意味を持ちます。特に「世を厭う」という表現では、世俗からの離脱や出家を意味し、厭世的ニュアンスを含みます。一方、手紙などで使われる「お体をお厭いください」という表現では、「避ける」という原義から転じて「大事にする」「かばう」という意味に変化します。否定形の「厭わない」は「どんな困難も厭わない」のように、苦労をいとわず取り組む姿勢を表す際によく用いられ、文章語としての格式高い印象を与える特徴があります。類語には「嫌がる」「忌む」「いたわる」などがありますが、それぞれ微妙なニュアンスの違いがあるため、文脈に応じた適切な使い分けが求められます。
避けることと大事にすることが一つの言葉で表現できるなんて、日本語の深みを感じますね!
厭うの由来・語源
「厭う」の語源は古語の「いとふ」に遡ります。「いとふ」は「忌む」や「嫌う」を意味し、不浄や不吉なものを避けるという意味合いを持っていました。漢字の「厭」は「圧する」「満足する」という意味を持つ字で、本来は「いやになるほど満たされる」というニュアンスでした。これが転じて「飽きる」「嫌になる」という意味で使われるようになり、日本語の「いとふ」と結びついて現在の「厭う」という表現が定着しました。中世以降、仏教の影響で「世を厭う」といった出家を連想させる表現にも用いられるようになり、言葉の奥行きが深まっていきました。
一つの言葉に「避ける」と「大切にする」という相反する意味が共存するなんて、日本語の豊かさを感じますね!
厭うの豆知識
「厭う」と「嫌う」の微妙な違いをご存知ですか?「嫌う」が単に好まない感情を表すのに対し、「厭う」には「積極的に避けようとする」という能動的なニュアンスが含まれます。また、面白いことに「厭う」は否定形の「厭わない」で使われることが多く、これは困難に直面しても逃げ出さないという強い意志を示す表現として好まれるからです。さらに、手紙の定型句「お体をお厭いください」は、もともと「危険を避けて大切にしてください」という意味から来ており、現代では健康を気遣う優しい表現として定着しています。
厭うのエピソード・逸話
作家の夏目漱石は『こゝろ』の中で「厭世的」という表現を多用し、主人公の心的状態を描きました。また、仏教思想家の鈴木大拙は「世を厭う」ことについて、単なる現実逃避ではなく、より深い精神的探求への出発点であると説きました。戦国武将の上杉謙信は「義のために戦うことを厭わない」という言葉を残し、信念を貫く姿勢を示しています。近年では、アスリートの羽生結弦選手が「困難を厭わず挑戦を続ける」というインタビュー発言で、この言葉を現代的な文脈で蘇らせました。
厭うの言葉の成り立ち
言語学的に見ると、「厭う」は心理動詞の一種であり、話者の主観的感情や態度を表現する特徴を持ちます。また、この言葉は「自動詞」と「他動詞」の両方の性質を示し、例えば「世を厭う」では他動詞的に、「心が厭う」では自動詞的に機能します。歴史的には、上代日本語では「いとふ」として用いられ、中古日本語期にはすでに現在の意味体系がほぼ完成していました。現代日本語ではやや文語的な印象を与えるため、使用頻度は減少傾向にありますが、格式ばった表現や文学的な文脈では重要な役割を果たしています。
厭うの例文
- 1 朝の満員電車の混雑を厭うあまり、わざわざ一駅前から乗るようにしている
- 2 面倒な人間関係を厭って、ついSNSの既読スルーをしてしまうことってありますよね
- 3 新しい環境への適応を厭う気持ちと、成長したいという思いの間で揺れる日々
- 4 母が『無理はしないで、体を厭いなさい』と言ってくれたあの言葉、今でも胸に響いています
- 5 上司の細かい指摘を厭わずに向き合った結果、思わぬスキルアップにつながった経験
「厭う」の使い分けと注意点
「厭う」を使う際には、いくつかの重要なポイントがあります。まず、現代の日常会話ではあまり使われない格式ばった表現であることを理解しておきましょう。ビジネスメールや手紙、改まった場面で使うと効果的ですが、友達同士のカジュアルな会話では不自然に響く可能性があります。
- 否定形の「厭わない」は意志の強さを表現するのに適しています
- 「お体を厭う」は健康を気遣う丁寧な表現として覚えておきましょう
- 「世を厭う」は厭世的ニュアンスを含むため、使用場面に注意が必要です
また、読み間違いに注意が必要です。「厭う」は「いとう」と読みますが、「嫌う(きらう)」や「忌む(いむ)」と混同されやすいため、文脈に応じて正しく使い分けることが大切です。
関連用語と表現
「厭う」に関連する言葉や表現を理解することで、より豊かな語彙力を身につけることができます。以下のような関連語があります。
| 用語 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| 厭離穢土 | おんりえど | この世をけがれた場所として嫌い離れること |
| 厭世的 | えんせいてき | 世の中を嫌って悲観的なこと |
| 喜新厭旧 | きしんえんきゅう | 新しいものを喜び古いものを嫌うこと |
世を厭ふといふは、すなはち世をいとふといふことなり
— 吉田兼好『徒然草』
これらの関連語を知っておくことで、日本語の表現の幅が広がり、より深い理解が得られるでしょう。
歴史的変遷と現代での使われ方
「厭う」は時代とともにその使われ方やニュアンスが変化してきました。古くは『源氏物語』や『徒然草』などの古典文学作品で頻繁に使われ、当時から「避ける」「嫌う」という意味を持っていました。
- 平安時代:貴族社会で雅やかな表現として用いられる
- 鎌倉・室町時代:仏教思想の影響で「世を厭う」表現が増加
- 江戸時代:教養ある階層の文章語として定着
- 現代:格式ばった表現として残り、主に文章語で使用
現代では日常生活で使われる機会は減りましたが、文学作品や改まった文章、そして「お体をお厭いください」のような定型表現として生き続けています。このような歴史的背景を知ることで、日本語の豊かさと深みをより一層感じることができるでしょう。
よくある質問(FAQ)
「厭う」と「嫌う」の違いは何ですか?
「嫌う」は単に好まない感情を表すのに対し、「厭う」には「積極的に避けようとする」能動的なニュアンスがあります。また「厭う」は格式ばった表現で、文章語として使われることが多いのも特徴です。
「お体を厭う」とは具体的にどういう意味ですか?
「危険や負担を避けて、ご自身の体を大切にしてください」という意味です。手紙やメールの結びで使われる丁寧な表現で、相手の健康を気遣う優しい言葉がけです。
「厭わない」はどんな場面で使いますか?
困難や苦労をいとわずに取り組む姿勢を表す時に使います。例えば「どんな苦労も厭わない」という表現は、目標達成への強い意志や覚悟を示す際に用いられます。
「世を厭う」とはどういう意味ですか?
この世の悩みや苦しみから逃れたいという厭世的(えんせいてき)な心情を表します。世俗を離れて出家するような場合に使われる、やや文学的な表現です。
日常会話で「厭う」を使うことはありますか?
現代の日常会話ではあまり使われません。主に文章語や格式ばった表現、文学作品などで見られます。ただし「厭わない」という否定形は、意志の強さを表す表現として現在も使われることがあります。