「人非人」とは?意味や使い方を語源を含めてご紹介

「人非人」という言葉をご存知でしょうか?多くの方にとって、あまり良いイメージのない言葉ではないかと思われます。ところが、実はこの言葉には意外に思える意味も含まれています。この記事では「人非人」の意味・使い方について、語源を含めつつ幅広く解説します。

目次

  1. 「人非人」とは
  2. 「人非人」:ひとでなし
  3. 「人非人」:緊那羅の別名(仏教語)
  4. 「人非人」:人と人でないもの(仏教語)
  5. 「人非人」:人の数に入らないもの(古典)

「人非人」とは

「人非人」「にんぴにん」と読みます。「にん」あるいは「にん」とは読みませんので注意が必要です。

「人非人」はいくつかの全く異なる意味をもつ言葉であり、語源もそれぞれ異なるものと考えられます。詳しくは後述しますが、共通点もあります。それは「人非人」の字義です。

漢文法によって「人非人」を読み下すと、「人にして人に非(あら)ず」となります。これはつまり「人間でありながら人間ではない」、もっと言えば「人間のような姿をしているが、人間とは別の存在である」といったように解釈できます。

「人非人」:ひとでなし

「人にして人に非ず」という言葉が意味するところは、何通りにも解釈することが可能ですが、もっともよく知られているのは「ひとでなし」という意味で用いられる「人非人」です。

すなわち、「人の道からはずれた人。義理人情をわきまえない残酷な人。度を越してダメな人」のことです。現在、「人非人」という言葉を聞く機会があれば、十中八九はこの意味で使われていると思って良いでしょう。

もちろん、よっぽどのことがなくては相手を「ひとでなし」などと言えば無礼に思われますし、理由があってもさらなる争いを招く場合があります。そのため、「人非人」という言葉を使う際にはよく気をつける必要があるでしょう。

語源

語源に関しては、漢文であることから中国由来である可能性がありますが、はっきりしたことはわかりません。おそらくは文語の中で成句として使われるようになったのではないでしょうか。日本では十二世期の『大鏡』に用例が見えています。

例文

  • 人非人でもいいぢゃないの。私たちは、生きてゐさへすればいいのよ(太宰治『ヴィヨンの妻』)
  • 残忍な事件を起こした犯人を弁護する必要があるのだろうか。畜生にも劣る人非人じゃないか。
  • 人をヤクザか人非人みたいに言いやがって。きっと見返してやるから、今に見てろよ。

「人非人」:緊那羅の別名(仏教語)

「人非人」は良く知られた「人でなし」の他にも三つの意味があります。うち二つは仏教語に由来するもので、もう一つは古典の中で使われている用法です。どれも現代では使う機会も稀でしょうが、参考までに解説します。

「緊那羅」

「人非人」はインド神話の神である「緊那羅(きんなら)」の別名とされます。緊那羅は「帝釈天(たいしゃくてん=インドラ神)」に仕え、仏教においては八部衆(天龍八部)の一柱とされています。

緊那羅は、「人に似て人ではない神」であるため、馬首人身や人首鳥身といった姿に表されています。

ちなみに八部衆(天龍八部)とは、仏法(仏の教え)の八柱の守り神とされ、緊那羅のほかに「天」「龍」「夜叉(やしゃ)」「乾闥婆(けんだつば)」「阿修羅(あしゅら)」「迦楼羅(かるら)」「摩睺羅伽(まごらか)」がいます。

語源

こちらの語源ですが、古くはインドに発生した神話や仏教の用語が中国に渡り翻訳されたものと考えられます。仏教およびその経典である仏典はその後日本にも伝えられました。

「人非人」という言葉は、天台宗の僧・源信(げんしん)がしるした『往生要集』などで使われています。

「人非人」:人と人でないもの(仏教語)

仏教語における「人非人」は、もうひとつ、「人」および「人でないもの(神)」を合わせた総称として用いられる場合があります。

例えば、出家者である「比丘(びく)」「比丘尼(びくに)」などはであり、上で触れた「緊那羅」や「天」、「龍」といった人知を超えた存在は非人であるとされています。

語源

こちらの「人非人」も、由来は漢訳された仏典です。有名なところでは『法華経』の序品(じょぼん)で言及されています。

「人非人」:人の数に入らないもの(古典)

「平家にあらずんば人にあらず」

「平家にあらずんば人にあらず」というセリフを聞いたことのある方は多いでしょう。この「人にあらず」という部分が「人非人」に適合します。

つまり、「人でありながら人として認められない、人の数にはいらないもの」という意味であり、原典である『平家物語』では「此一門にあらざらむ人は皆人非人なるべし」と書かれています。

差別的な意味が含まれる

この意味での「人非人」は、自分が持っている権威をかさに相手の人権など全く考えない、差別的な意味を含んでいます。

よく知られているように、平家は絶頂を迎えていた頃の栄華もむなしく、最後には源氏によって滅ぼされる運命をたどることになりました。

『平家物語』は、自分たち以外の人々を「人にあらず」と奢りたかぶったその態度こそ「ひとでなし」の所業だったのだ、という教訓を現代に伝えているのかもしれません。


人気の記事

人気のあるまとめランキング

新着一覧

最近公開されたまとめ