「捨象」とは?意味や使い方をご紹介

「捨象」という言葉をご存知でしょうか。「しゃしょう」と読みます。普段なかなか見かけない言葉ですが、何かを「捨」てていることはおわかりでしょうか?動物の「ぞう」とは何も関係ありません。ここでは「捨象」の意味や使い方についてご紹介します。

目次

  1. 「捨象」とは?
  2. 「捨象」の使い方
  3. 「捨象」の例文

「捨象」とは?

「捨象」(しゃしょう)とは、ある事物や表象を抽象(ちゅうしょう)する際に、その対象が持っている何らかの側面・性質・要素を捨て去ることです。

少々専門的な用語ですが、まずは簡単に、捨象は「イメージ(=表象)を捨て去ること」と覚えましょう。そして、なぜ「イメージを捨て去る」のかといえば、それは「抽象」という作用のためです。

「捨象」と「抽象」は密接につながった言葉ですので、まずは「抽象」の意味から確認していきましょう。

「抽象」とは

「抽象」とは、ごく簡単に言えば、「物事が持つ共通の性質を抽(ぬ)き出すこと」という意味です。

例えば、あなたが「シロ」「クロ」という名の二匹の猫を飼っていたとします。この二匹の猫は、「猫」という共通の性質(種族名)を持っていますね。その二匹を「猫」として捉えているとき、あなたは「シロ」「クロ」を抽象しているといえます。

「猫」はさらに「哺乳類」に、「哺乳類」はさらに「動物」に、「動物」はさらに「生物」に抽象が可能です。共通の性質を持っていると考えられるのであれば、例えば「猫」を「かわいいもの」と抽象することも可能でしょう。
 

「抽象」する際に必ず起こるのが「捨象」

「シロ」「クロ」と名のついた二匹の猫を「猫」と抽象するとき、その二匹の猫からは「猫という種族としての共通の性質」のみが抽き出されているのです。

逆にいえば、「シロ」「クロ」という名前、それぞれの個体の品種、性別、年齢、毛色、性格など「固有の側面・性質・要素」は、抽象の際に自ずと捨て去られることになります。これが「捨象」です。

「抽象」は普遍的な心理的作用のひとつであり、人間は意識せずとも日常的に物事の共通要素を抽出し、それに伴って「個々の性質(=具体性)」を捨象していると考えられています。

「捨象」の使い方

「捨象」という言葉が使われるのは、論理学や哲学などの専門学的な領域にほぼ限られています。相手が大学教授でもない限り、日常会話で「〇〇を捨象すると~」と言っても意味が伝わらない可能性が高いでしょう。

「抽象」のほうは「君の話は抽象的すぎる」などのように一般会話にも用いられることがありますが、それに伴って必ず発生する「捨象」は、言葉としての知名度がやや低いようです。

とはいえ、学問を修め、自分の主張を筋道立てて語る立場にある方であれば、思考における重要な作用のひとつとして使い方をしっかり押さえておきたいですね。

使い方のポイント

「捨象」はその字の通り、「(抽象にあたって)何が捨てられているか」に注目した言葉です。そのため、「物事を抽象化しすぎている」場合や、「抽象化の方向性に疑義がある」場合など、抽象のありかたを論ずる際に用いられることが多くなります。

例えば、病気になった猫を治療する例を考えましょう。この際、種としての生態研究を飛び越して「生き物はいずれ死ぬ」と結論するのは抽象化しすぎであり、「猫はかわいい」という抽象化は、治療にあたってまず役に立ちません。

抽象はとても便利な思考の道具ですが、時に論理の飛躍を招きます。自分あるいは他者の抽象のプロセスが適切であるか裏付けが欲しい際などに、「何を捨象したか」という言葉で確認するのがよいでしょう。

「捨象」の例文

  • 「白い肌」「黒い髪」「優しい」「笑顔がすてき」「足が長い」などの特徴をすべて捨象して、ただ一言「美しい」で済ませてしまうのは何だかもったいない気がする。
  • 君は「人間」という抽象的な言葉をよく使うが、どんな人間にもそれぞれの名前や生活があるのだから、それを捨象せず、人間ひとりひとりの在り方にもしっかり目を配らなければいけないよ。
  • 科学者が実験を繰り返して多くのデータを集めるのは、共通の性質を見つけ、その他の要素を捨象することで、普遍性のある法則(ルール)を発見しようとしているからだ。


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