「物を言う」とは?意味や使い方をご紹介

喋るはずのない「物」が「物を言う」のですから面白い表現ですよね。皆さんも思春期の頃、「目は口ほどに物を言う」と言われて、心の秘密を暴かれたことはありませんでしたか。ここでは「物を言う」ことの意味に触れ、言葉の使い方について説明します。

目次

  1. 「物を言う」について
  2. 「物を言う」の使い方
  3. 「物言う」について
  4. 「物を言う」のは「言霊(ことだま)」

「物を言う」について

「物を言う」の意味

「物を言う」とは、人が言葉を発して喋る、話す、発言することです。また「日頃の努力や功績が物を言う」などというように、頼れる物を得て「存分な力を発揮する」場合や「十分な効き目を見せること」「役立つこと」の意味でも使われます。

「物を言う」の由来

日本文学の古典『源氏物語』『新古今和歌集』でも、作者は、言葉を口にすることを「物をいふ」と記述しています。このことから、日本では古くから言葉を「物」と言い慣わしていたことが窺えます。
 

「いかなる心にて、かやうの人に、物をいひけん
『源氏物語』「真木柱」より
 
「女のもとに、物をだにいはんとてまかれりけるに」
『新古今和歌集』「恋三・一一八八(詞書)より

「物を言う」の使い方

「○○が物を言う」

「○○が物を言う」のように喋らぬ物や事象を主語とする場合は、「○○が力を発揮する」「○○が役に立つ」ということを表します。

【使い方】

  • 上り坂では心臓の強さが物を言う。
  • 日頃の努力が物を言うのだから、怠けてはいけないよ。

「無責任に物を言う」

「無責任に物を言う」とは、都合の良いきれいごとばかり並べる態度や、平気で嘘を吐くような態度を指しています。

【使い方】

  • 「絶対に売れます。絶対に儲かります」だなんて、何て無責任に物を言う営業マンだ。

「上から物を言う」

「上から物を言う」は、高圧的な口調で相手を見下す態度や、気位の高さを包み隠さず言葉にする様子を指しています。近頃では、「上から」ではなく「上から目線で」のほうが、より身近な言い方になっているようです。

【使い方】
いつも上から物を言うので「えらい人」かと思ったら、気の小さい「ただの人」だった。

「ずけずけ物を言う」

「ずけずけ物を言う」と同じ意味の言葉に「歯に衣(きぬ)着せぬ」があります。ふたつとも、手加減や慎みを持たず、言いたいことをはっきり口にすることです。

【使い方】

  • どんなに親しい間柄でも、ずけずけ物を言うのは避けたほうがいい。

「目で物を言う」

俳優にはセリフ以外にも、目の演技がありますね。「目で物を言う」とは、目の表情や視線、まばたきなどで、相手に気持ちを伝えることです。

【使い方】

  • 部長の表情に、「今はまだ黙っているように」と、目で物を言う様子が窺えた。

「物言う」について

「物を言う」と似た言葉に「物言う」があります。「を」をはずしても「物を言う」の意味が損なわれないことから、俳句や詩歌では文章のリズムを整える時に使われます。

「物言えば唇寒し秋の空」

「物言えば唇寒し秋の空」は、松尾芭蕉の句です。人の悪口や短所を言い募っていると、言っている本人自身が嫌になってくることを表しています。

また、転じて、うっかりしたことを喋るとそれがもとで災いを招くと戒めの意味もあります。いつの時代でも「口は災いのもと」だということです。

「物言う花」

下の引用は、明治時代の作家、坪内逍遥の作品『当世書生気質』に記された「物言う」です。

「飛鳥山に物言う花を見る書生の運動会」


「物言う花」とは、「言葉を理解できて会話をする花」の意味で、美人や若く華やいだ娘たちのことを指しています。時は明治、場所は東京都北区王子の飛鳥山です。花見に訪れた娘たちを目当てに集まる若い男(学生)たちの様子を、作家が「近頃の若い者は…」と描写しています

「物言ひ伽(とぎ)」

次の文は、江戸時代の浄瑠璃・歌舞伎作者、近松門左衛門の『博多小女郎波枕』の中の一節。

「この六人を請け出して、これにゐらるる人々の物言ひ伽」 
 
「伽」(とぎ)とは、退屈なときに話し相手になってなぐさめてくれる人を指します。さらにこの物語の場合、「物言ひ伽」は、女性を妻や愛人にすることの意味で用いられています。江戸時代の博多の港を舞台に、男女の悲恋が語られる浄瑠璃(じょうるり)です。

「ものいひける女」

引用したのは、平安時代の歌物語『伊勢物語』「32段 倭文の苧環(しずのをだまき)」の文中にある「物言う」です。

「むかし、ものいひける女に、年ごろありて、…」

この部分を現代風に訳してみると、「かつて、口説いた女のもとへ、何年も経ってから、…」となります。なるほどいつの時代でも「物言う」ことは「秘め事」のはじまりにつながるようです。

「物を言う」のは「言霊(ことだま)」

言葉が持つ力

『新約聖書』では「はじめに言葉ありき」と説きます。解釈はいろいろありますが、言葉どおりに受け取るならば「世界のあらゆるものは言葉によって成り立っている」ということです。言葉には何かしらの根源的な力があるという考え方は、古来、世界各地の文化に見られます。

日本の言霊

言葉に宿る力(霊/魂)を言霊(ことだま)と言います。口にした言葉、または思考が実際の事象に反映されるという考え方です。

古来より、日本では言霊が信じられてきました。まだ科学が発達していない時代には、天変地異さえ、言霊によって引き起こされると考えられていたほどです。

「物を言う」のは「言霊」

「物を言う」の意味が「言葉を発する」→「力を発揮する」と派生した背景には、言霊があると考えられますつまり、「物を言う」の依って来たるところを支えているのは言霊と言えるでしょう。

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