「剥奪」とは?意味や使い方をご紹介

「剥奪」はニュースでよく使われるので、皆さんご存知でしょう。意味は読んで字の如く、「剥がす様に奪う」です。「奪う」といえば強盗ですが、強盗は「剥奪」することはできません。むしろ「剥奪」される方だったりします。どういうことでしょうか。例文を交えてご紹介します。

目次

  1. 「剥奪」の意味
  2. 「剥奪」の種類と「剥奪」される条件
  3. 強盗は「剥奪」しない。むしろ「剥奪」されるほう。
  4. 貧困と「剥奪」「相対的剥奪」
  5. 「剥奪」のまとめ

「剥奪」の意味

「剥奪」(はく・だつ)と読みます。「剥」は「剥がす」で、「付着している物を取り去る」という意味です。「子供をおもちゃから引き剥がす」といった使い方をします。「奪」の意味は「奪う」こと。「他人の所有している物や備わっている物を奪うこと」です。

「剥」にも「奪」にも、取る対象の心理的・物理的抵抗があって無理に取るイメージがあります。ふたつ合わさることでより強調された「剥ぎ取ること。剥ぎ取るように、無理に奪うこと」という意味になります。

ただし剥ぎ取るとは比喩表現であって、実際に剥ぎ取れる何かがあるわけではありません。「剥奪」の対象は、物質的なものではないのです。

「剥奪」とは

「剥奪」とは、個人に付随している、地位や権利などの社会的なものを、行政や組織が強制的に奪う時に使われます。

「剥奪」の対象は、大まかに二つに分類することができます。

  • 免許や資格などの、社会システム的なもの
  • 自由や尊厳などの、人間性にかかわるもの

日本は法治国家なので、もちろん不当に「剥奪」されるわけではなく、その人物が犯罪を犯したり、その職業の資質に欠けると判断された時に、行われます。

「剥奪」されないためにも、剥奪する側と対象とその条件について詳しく見ていくことにしましょう。

「剥奪」の種類と「剥奪」される条件

運転免許

皆さんが「剥奪」される可能性がある代表的なものは、運転免許でしょう。車を持っていなくても、運転免許は持っているという方は多いと思います。

「運転免許剥奪」とは、過失性の高い事故を起こしたり、違反の繰り返しや運転に支障を及ぼす病気が判明したときなど、免許を持つ資格がないと見なされた時の行政処分で、本来は「運転免許の取り消し」が正しい言葉です。

しかし、ニュースを見ると、「取り消し」と書いてあったり「剥奪」と書いてあったりします。記事の見出しには、「剥奪」と書く場合がほとんどでしょう。「剥奪」には、行政処分に社会的制裁の意味が加味されています。

  • A被告(78)は人身事故を起こし、運転免許を剥奪された。家族からは、高齢を理由に運転免許の自主返納を勧められていた。

免許や資格など、仕事にかかわるもの

免許は行政が発行しています。資格は行政の他に、職業団体、民間団体など様々です。無免許でその仕事をするのは違法ですが、無資格は違法になりません。例えば弁護士資格ですが、簡易裁判所ならば無資格で弁護人になることが可能です。

免許や資格の剥奪は、剥奪する権限を与えられた委員会等が、審議によって決定します。仕事とは生きる手段ですから、病気で明らかに就業に支障があると判断されたり、悪質な犯罪を犯さない限り剥奪されることはありません。職業上の技術や立場を利用して犯罪を犯したときに、剥奪されることが多いようです。

  • B弁護士は、任意後見制度で依頼人の後見人として、財産管理をまかされていたが、管理財産から横領していたことが発覚した。弁護士の信用を著しく失墜させたとして弁護士会はB弁護士の弁護士資格を剥奪した。
ここも、正式には、処分名は弁護士資格の登録「抹消」や「除名」であって、「剥奪」ではありません。「剥奪」には、身分や地位を奪うといった意味が込められています。

権利

  • A市会議員は選挙中、選挙法違反が発覚し、公民権が剥奪された。むこう1年間、選挙の出馬や投票、選挙の支援活動などをすることができなくなった。
  • 専門家の所見から子供の虐待があったと認定し、家庭裁判所はB夫妻の親権を停止することを決定した。B夫妻は親権を剥奪された。
「権利」「~権」は「剥奪」と書いてほぼ間違いありません。人が生まれながらに持っている権利、人権は、剥奪されてはならないものですが、国によっては権力者の圧政によって、人権が剥奪されている状態であるといえる国もあります。

メダル

「剥奪」は、スポーツの世界でよく使われています。

  • テニスのUSオープンの決勝で、セレナ・ウイリアムズ選手は審判の警告を無視し暴言を続けたため、ポイントを剥奪された。
  • 競技後のドーピング検査で禁止薬物使用の不正が発覚したため、IOC(国際オリンピック委員会)は、A選手の金メダルを剥奪した。
不正やルールに反した行為を行った選手に対して、競技主催者や審判から「剥奪」が行われます。

順位を争う競技やコンテストでもらう金メダルは「物」ですが、メダルを奪うことではなく、1位という順位の取り消しが「剥奪」することです。不正行為により、メダルを持つ資格や名誉を剥奪されたといえるでしょう。

強盗は「剥奪」しない。むしろ「剥奪」されるほう。

強盗といえば奪う者ですが、強盗がなにかを「剥奪」することはできません。

  • 誤用例)コンビニ強盗に入られ、店員は抵抗したが、レジのお金の全てを剥奪された。
基本的に「剥奪」の対象は「物」ではないので、上記は誤用です。逆に強盗は、逮捕され罪が確定すると、「剥奪される」ことになります。
  • 生命刑(死刑・生きる権利の剥奪)
  • 自由刑(懲役刑・自由の剥奪)
  • 財産刑(罰金刑・財産権の剥奪・没収)
これらをまとめて「法益の剥奪」といいます。生命も自由も人間性にかかわることで、本来奪われてはならないものですが、刑罰として、これらのものが「剥奪」されます。

貧困と「剥奪」「相対的剥奪」

所属している集団の他者と比較して自分が得るべきものを得ていないと感じたり、不平等だと不満に感じることを相対的剥奪(感)といいます。社会学から発生した概念です。

  • 経済発展の著しい中国では、全体的に生活水準が向上したが、貧富の差が激しくなり、相対的剥奪感を訴える人が増加した。
日本でも格差社会という言葉が浸透してきましたが、貧困を表す語として「相対的剥奪」という言葉が使われます。日本の高校生を例にとってみますと、
  1. 高校生にもなるとスマホを持っている子の割合が急増し、LINEなどのソーシャルネットワークで繋がっている。
  2. 貧困でスマホを持てない高校生は、仲間うちに入れない。社会参加の機会を失っている。
  3. 機会不平等である。
となります。子供がスマホなど論外だという国なら相対的剥奪とはなりませんが、日本の場合、スマホ普及率は年々高まっています。子供に限らず、貧困でネット環境を持てない場合、社会に参加する機会、権利を喪失している。つまり、貧困によって、社会から剝奪されている状態、といえるでしょう。

特に子供の貧困に伴う「社会的剥奪」は、貧困の連鎖にも繋がる、危機的な問題として捉えられています。

「剥奪」のまとめ

「剥奪」がどんな時に使われるか、お分かりになったでしょうか。基本的には立場が上の存在、または社会の大多数から下の者に対して使われる言葉です。「奪う」ことをなんでも、「剥奪する」と置き換えることはできませんのでご注意ください。

真面目に誠実に生きていれば「剥奪される」ことはない。と言いたいところですが、格差社会が広がりつつある昨今、そうもいかないようで、困ったものですね。

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